『Chelsea Horror Hotel』Dee Dee Ramone(Da Capo Press)
「ニューヨークのパンク魂溢れる物語」
ニューヨークのパンク・バンド、ラモーンズのボーカルだったジョーイ・ラモーンは2001年4月に49歳で死んだ。僕は、ニューヨークのイーストビレッジにあるマクドナルドで一度ジョーイをみかけたことがある。長髪の身体の大きなほかの男たちに守られるようにしてレジの側に立ち、仲間のひとりが注文をするのを眺めていた。見上げるような彼の背の高さが印象的だった。
その頃、僕はロワー・イーストサイドから生まれたパンクの歴史が口述形式で語られる「Please Kill Me」という本を読んでいた。「Please Kill Me」はルー・リード、リチャード・ヘル、イギー・ポップなどのパンクの先駆者たちともいえる人々のコメントが載っていた。ジョーイ・ラモーンのコメントももちろん含まれていた。
それから数ヶ月後、イーストビレッジの本屋でラモーンズのギタリストであったディー・ディー・ラモーンが書いた小説を見つけた。「Chelsea Horror Hotel」というそのタイトルと表紙の絵が面白くその本を買った。
「Chelsea Horror Hotel」はチェルシーホテルを棲みかとしているディー・ディーが主人公となり、ドラッグをやり殺人まで犯してしまうという話だ。イギリスのパンク・バンド、セックス・ピストルズのベーシストだったシド・ヴィシャスや、ニューヨークのグループ、ハートブレーカーズのジョニー・サンダースなど死んでしまったミュージシャンたちが脇役として次々と登場する。ディー・ディーももうこの世にいないが、彼の描いたチェルシーホテルはまるでお化け屋敷だ。
ジョーイ・ラモーンが出てくるが、ジョーイの死がその場面をブラック・ユーモアの極みとさせている。ディー・ディーは、ラモーンズを再結成させ一儲けをするため。みんなジョーイの死を待っているんだと友人に語る。そして、ジョーイが死んだら死体をミイラ化させ、再結成ラモーンズのステージで使うという。その使い方というのが、天井からのワイヤーで吊るされたジョーイのミイラを車椅子に座らせ、コンサートの最後の曲の途中に踊らせるというもだが、もしこれを本当にやったとしたら、ニューヨークのパンク・ファンは狂喜乱舞しそうだ。ロワー・イーストサイド流のシック・ジョークだ。
物語の最後は、自分の脳みそに直接ヘロインを打ち込み死んでしまうというもの。死体の周りにはデーモンが集まり、ディー・ディーは地獄へ落ちて行く。最後までニューヨーク・パンク魂溢れる物語だった。