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『Hooking Up 』Tom Wolfe(Farrar Straus & Giroux)

Hooking Up

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「子供の喧嘩のようなトム・ウルフの作品」


 アメリカの作家トム・ウルフ が小説『Man in full』を出したのは1998年11月だった。出版元のファーラ・ストラウス&ジローは『Man in Full』の初版を120万部とすると発表した。

 注目を集めたウルフの小説はベストセラーとなり、初版部数を全て売り切り、2万5000部ずつ7回の増刷を記録した。

 ベストセラーになった『Man in Full』だが、アメリカ文学界の大御所ともいえる三人の作家はウルフの新作を酷評した。その三人とは、ジョン・アップダイクノーマン・メイラー、ジョン・アービングだった。三人の共通した意見は「ウルフの作品は文学と呼べるものではなく、小説とさえ呼べない。むしろジャーナリズム、あるいはエンターテインメントに属するもので、ウルフは文学者ではない」というものだった。

 とここまで『Man in Full』の話をしてきた理由は、ウルフの『Hooking Up』に『My Three Stooges』というエッセイが収められているからだ。スリー・ストゥージズとはアメリカのコメディー番組で日本でも「三ばか大将」という名前で知られていると思う。

 しかし、ウルフのいう「三ばか大将」とはもちろん、アップダイク、メイラー、アービングのことだ。このエッセイのなかでウルフは「アメリカ文学は死んでいる」と言い、その理由をアメリカの作家がいまのアメリカを伝えることを止めてしまったからだとしている。

 ウルフはエッセイのなかで三ばか大将、つまりアップダイクたちがいかにいまのアメリカを見ずに作品を書いているかを指摘している。アップダイクもメイラーもその後、2009年、2007年とそれぞれこの世を去ってしまって、すでにこの論争は歴史の領域に入りつつある。

 『Hooking Up』には、そのほかテレビのニュース番組の内側を題材にしたジャーナリスティックな小説や、シリコンバレー特有のカジュアルな企業文化が生まれた経緯、若者のクラブシーンからのルポルタージュが収められている。

 つまり、ウルフは自分のジャーナリスティックな手法が正しいものだと訴え、その見本として自作の小説やルポルタージュを掲載しているのだ。 

 『Hooking Up』にはまた『ニューヨーカー』誌と当時の編集長であったウィリアム・ショーンを批判したエッセイが収められている。

 『Tiny Mummies!』と題されたそのエッセイはウルフが1965年に『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』に掲載したものだ。そして、本の最終には『ニューヨーカー』誌のレナーダ・アドラーが2000年に出版したメモワール『Gone: The Last Days of The New Yorker』から「私がこれを書いているいま、ニューヨーカー誌は死んでいる」という彼女の文を紹介し、そんなことは35年前から自分が言ってきたことだと締め括っている。

 トム.ウフルくらいの大作家になっても、子供の喧嘩みたいだ。こういうのをアメリカ魂というのだろうか。


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