『A Blind Man Can See How Much I Love You』Amy Bloom(Vintage Books)
「エイミー・ブルームの短編集」
僕はアメリカ作家のアンソロジーを読むことが多い。ホートン・ミフリンから毎年出版される『ザ・ベスト・アメリカン・ショートストーリーズ』の編集者であるカトリナ・ケニソンに会って話を聞いたころから、アンソロジーをよく読むようになった。
ケニソンがボストンの『プラウシャーズ』誌、サンフランシスコの『ジジーバ』誌、コーネル大学の『エポック』誌など優れた短編を載せる文芸誌の存在を教えてくれたのも、僕がアンソロジーを多く読み始めるきっかけになった。
アンソロジーや文芸誌を読むなかで、僕にとっての新しい作家を数人発見した。ローリー・ムーア、ティム・ガトロー、マキシン・スワン、エミリー・パーキンスなどが僕の好きな作家となった。
ヴィンテージから出版されている短編集『A Blind Man Can See How Much I Love You』を出版したエイミー・ブルームもよく作品が掲載されていた作家のひとりだった。ブルームの作品は『ザ・ベスト・アメリカン・ショートストーリーズ』、フランシス・コッポラが出した『ゾエトロープ』、『ザ・スクリブナー・アンソロジー・オブ・コンテンポラリー・ショートフィクション』などに載っていた。
ブルームのこの本が出版された頃『ニューヨーク・タイムズ』紙に彼女の記事が出た。
「私は人々を取り巻く人間関係についての話を多く聞いてきた」
とブルームは記事のなかで語っている。ブルームが作家としてテーマとするものは、人々の言葉と本当の感情の落差や、その行動と本当に望んでいることのギャップだと言う。
彼女の言葉どおり『A Blind Man Can See How Much I Love You』には登場人物の隠された思いが浮き彫りにされた作品が多い。
表題にもなっている作品には性転換を受ける娘とその母親の話だ。母親は、娘が自ら望んで男になることにできる限りの協力をしようとする。しかし、心の中には解決不可能な感情を隠している。母親は新たな男性と出会い自らも変わっていってしまう予感を感じる。
また、同じ主人公が登場する『ナイト・ヴィジョン』と『ライト・イントゥ・ダーク』は黒人の息子と白人の継母が過去に一度だけ肉体関係を持ち、その影を長く引きずっていく話だ。お互いの胸のなかには、怒り、愛情、後悔、許しの感情が渾沌と渦巻いているが、ほかの家族たちの前では母と子の平凡の姿を演じていく。
この短編集には、人々の心の中を微妙なニアンスで描きだす八編の短編が収められている。