『The Sleep-Over Artist 』Thomas Beller(W W Norton)
「独身男性も楽じゃないと思える作品」
ニューヨークに住んでいる僕にとって、ニューヨークがたくさん出てくる物語はそれだけで楽しめる。きっとこの街が好きなのだと思う。
W・Wノートン社より出版されたトマス・ベラーの短編集『セダクション・セオリー』に続く『ザ・スリープ・オーバー・アーティスト』もニューヨークを主な舞台とした小説だ。僕のアパートから五分とかからない本屋、シェークスピア・アンド・カンパニーでこの新刊を見つけ、普段なら定価より安く買えるアマゾン・コムから二、三冊まとめて新しい本を注文するのだが、この本はその日のうちに読みたくてその場ですぐに買ってしまった。
ベラー自身、若手の作家だが、一方では人気作家のデイビッド・フォスター・ウォーレスなどの作品を掲載してきた文芸誌『オープン・シティ』の創刊編集長でもある。『オープン・シティ』は表紙の感じも新しく、なかなかよい作品が掲載されている。
また、ボストンにあるエマーソン・カレッジから発行され高い評価を受けている『プラウシャーズ』やホートン・ミフリン社から出ている『ザ・ベスト・アメリカン・ショートストーリーズ』などの文芸誌、それに『ニューヨーカー』誌など雑誌にもベラーの作品は掲載されてきた。
『ザ・スリープ・オーバー・アーティスト』には彼の前作で登場したアレックス・フェイダーの六歳のころの話から二十代の終わりまでの話が年代ごとに十二作収められている。
表紙ではノベルとなっているが、同じ主人公が登場する短編集とみることもできる。メリッサ・バンクの『ザ・ガールズ・ガイド・トゥ・ハンティング・アンド・フィッシング』も同じ手法を用いた小説だったなぁ、と思いながら読み進めた。
物語は、まずアレックスが住むアッパー・ウエストサイドの様子や、友人の家に泊ってばかりいるアレックスの生活が描かれる。次に二十歳を過ぎたアレックスが通ったグリニッチ・ビレッジのドラッグディーラーのアパートでのできごとや、ガールフレンドや伯母のアパートでの物語が語られる。
最も長い作品である『セコンズ・オブ・プレジャー』は、ロンドンに住む子供を持つ女性と遠距離恋愛をし、最後にその関係も終わりをむかえる話だ。読んでいくうちに、この小説が他人の家で起こったことばかりを描いている作品だと気がつき、なるほど、それで『ザ・スリープ・オーバー・アーティスト』というタイトルがついているのだと納得した。
近頃は、都会に住む独身女性を描いた作品が脚光を浴びているが、独身男性もいろいろ苦労をしているもんだとおかしなところで共感した作品だった。