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『Broke Hear Blues』Joyce Carol Oates(Plume )

Broke Hear Blues

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「ジョイス・キャロル・オーツが描く心の地図」

 表紙に惹かれて本を買うという買い方があるけれども、ジョイス・キャロル・オーツの『Broke Heart Blues』がまさにそうだった。

 ピンクのキャデラックに米国北東部の秋の風景が映ったカバー。そうえタイトルにが何やら切なげだったので、バーンズ&ノーブルの売場に平積みになっていた本をレジに持っていきその場で買った。レジにいた女の子はその表紙を眺め、「私が通った学校の景色に似ているわ」と言いながら本を袋に詰めた。この表紙に反応するのは僕だけじゃないんだと思った。

 『Broke Heart Bluse』は1960年代から作品を発表しているジョイス・キャロル・オーツの、第29作目となる長編小説だ。

 オーツは『The Wheel of Love』や『Upon the Sweeping Flood』など短編や、詩も数多く手掛けている。

 短編に優れた作品が多く、『Them』という長編で全米図書賞を受賞しているが、短い物語が得意な作家とされてき。しかし、この長編は、出版当時その評判を変えるほどの評価を周囲から受けた。

 米国出版界の専門誌『パブリッシャーズ・ウィークリー』誌では「これまでの長編で最高の出来」と評した。

 オーツは1938年にニューヨーク州ロックポートで生まれた。14歳の時にタイプライターを贈られ、そのタイプライターを使って物語を書き始めた。

 大学はニューヨーク州にあるシラキュース大学に進学。在学中に文芸コンテストで優勝をしている。その後、ウィスコンシン大学院に進み、大学院を卒業後はカナダの大学やニュージャージー州にあるプリンストン大学でクリエイティブ・ライティングのクラスを受け持っている。人気作家となったジョナサン・サフラン・フォアも彼女の教え子だ。

 大学で教えながら、1年の内に数本の作品を仕上げるオーツは、米国人作家に珍しく多作だが、その理由をあるインタビューで次のように答えている。

 「私は仕事中毒になっている人間ではありません。書くことや教えることから大きな喜びを得ていて、一般に言われる『仕事』という感覚ではないのです」

 さて、本書の内容だが、ニューヨーク州にある小さな町が舞台になり、主人公はジョン・ハート・レディーという高校生。ジェームス・ディーンを思わせるジョンはクラスの女子学生の憧れの的だ。

 しかし、ジョンは母親に暴力をふるった男を銃で撃ち殺してしまう。だが、それは家族の誰かの犯行をかばって、自らを犯人として仕立て上げている可能性もある。物語はジョンが犯したかも知れないその事件を中心に、60年代から90年代に至るまでのジョンと高校生仲間の人生が描かれている。


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