書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『Home Town』Tracy Kidder(Washington Square)

Home Town

→紀伊國屋書店で購入

ニューイングランド地方のカレッジ・タウンが舞台となった小説」

 ピューリッツァ賞作家、トレーシー・キダーの小説『Home Town』はニューイングランド地方の小さな町を舞台とした小説だ。ニューイングランド地方とは、ニューハンプシャー州メイン州マサチューセッツ州など米国北東部の六州を含む地区を指している。著者のキダーはマサチューセッツ州メイン州に家を持ちニューイングランド地方で暮らしている。

 この小説を読み始めたら、いきなりニューイングランド地方に住む人と知り合いになった。

 まず、メイン州で1989年から『The Cafe Review』という文芸誌を発行している編集長から連絡があった。共通の知り合いを通して『The Cafe Review』誌と手紙を送ってきてくれた。メイン州は綺麗だから一度、遊びに来いという。メイン州を拠点にずっと雑誌を出してきた彼は、これからも都会にでる気はないらしい。何か『Home Town』の物語の中に出てくるような人物だなぁ、と思いながらもらった『The Cafe Review』誌を読んだ。

 それからすぐに、セブン・シスターズの一校、マウント・ホリオーク・カレッジに通う日本人の女子学生と知り合った。セブン・シスターズとは米国東部の名門女子大であるバーナード、スミス・カレッジ、マウント・ホリオーク・カレッジなどの7校を指しそう呼んでいる。星に姿を変えられた7人の娘たちの伝説にちなんで「セブン・シスターズ」と名付けられた。昔からの呼び名で、今はこれらの大学の多くは男子生徒にも門戸を開いている。

 彼女が通っている大学がマウント・ホリオークだと聞いて、僕はふ~んと思った。というのも、『Home Town』の舞台となっているのが、スミス・カレッジやマウント・ホリオークが近くにあるマサチューセッツ州の小さな町、ノザンプトンという土地だったからだ。

 僕自身、大学がマサチューセッツ州だったので『Home Town』をわざと時間をかけてゆっくり読んでいた。そこに『The Cafe Review』誌の編集長やらマウント・ホリオークの学生やらが現れたので、ニューイングランドの海岸や、あの綺麗なしかしとても寒かった冬などを懐かしく思い出すことになってしまった。

 『Home Town』には、古い歴史のあるノザンプトンの町とそこに暮らす人々が描かれている。ノザンプトン以外では働いたことのない警察官、厳しいが人情のある裁判官、法も犯すが警察の捜査にも協力する小悪党、スミス・カレッジに通う生活保護を受けている母親などが登場する。この小説は絵に描いたようなニューイングランド地方にあるカレッジ・タウンが舞台だが、その一見平和な街に暮す人々の人生を追い、微妙な人間ドラマを描いている。

 本を読み終わる頃には、車を借りてニューイングランドに行こうと決心していた。

 

 


→紀伊國屋書店で購入