『 Shades of Justice』Fredrick Huebner(Simon & Schuster)
「法医学者ウィル・ハットンが活躍する法廷スリラー」
今回、読んだ本は、法廷スリラーの『Shades of Justice』。著者のフレドリック・ヒューブナーはシアトル州で資格を持つ弁護士だ。
「弁護士が書く法廷スリラー」。どこかで聞いたことのある経歴だと思ったら、そう、アメリカの大人気作家ジョン・グリシャムと同じだ。グリシャムもミシシッピ州で弁護士資格を持つ作家で、だいたい年1冊のペースで法廷スリラーの新作を発表している。
アメリカは「訴訟の国」なので弁護士の数が多い。僕にも弁護士の知り合いは何人かいる。移民法専門の弁護士、労働法の弁護士、不動産専門の弁護士など各人の専門分野が分かれている。
「訴訟の国」に住む僕は、裁判所に出向いての係争というのも経験した。カリフォルニアに住んでいた頃、二世帯住宅の片側を人に貸した。その人から夏の間、エアコンが壊れたので家賃を払わないと告げられ、困った僕は裁判所に訴えを起こした。判決は、僕の勝ちだったが、結果的には負けてしまった。
というのは、ある一定の期限内に家賃を払うようにと告げられたその人が、その期限の終わらない内に引っ越しをしてしまい、そのまま行方が分からなくなってしまったのだ。引っ越し先だと教えられていた住所を訪ねてみると、見ず知らずの人が住んでいた。
カリフォルニアの夏、僕に起こった法廷スリラーだ。世の中、何が起こるか分からない。
さて、本の内容だが、主人公は法廷で被告人や原告人に対して精神鑑定の証言をおこなう法医学者ウィル・ハットン。彼が新たに関わる裁判の被告人がローラという画家だ。ローラは、夫を殺した罪に訴えられている。ローラを守ろうとする弁護士はエド・ハウザー。ウィルが父親と慕う人物であり、ローラの母親の恋人でもある。
エドは仲間の弁護士と相談して、長く躁鬱病を患っていたローラの犯行時の精神状態を想像し、精神異常による犯行とした無罪を主張する。
ウィルは弁護側の主張の正しさを証明するために、ローラが何故、精神障害をきたしたかの調査を進める。その調査のなかでウィルは、ローラやローラの母、殺されたローラの夫、それにエドたちが関わる犯罪の新事実を見つけていく。
ゆっくりと展開する謎解きの面白さもさることながら、読み応えのあるのは、裁判の場面だ。一般市民から選ばれた陪審員たちを前に、原告側と被告側の弁護士が繰り広げる激しい尋問合戦。裁判を自分の側に有利に展開させるための戦術、その戦術の正当性を検討する裁判官の判断など、読んでいて息を飲む面白さだ。
ぐいぐい引き込まれて、一気に読み終えてしまった一冊だった。