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『Wasted : A Memoir of Anorexia and Bulimia 』Marya Hornbacher(Perennial)

Wasted : A Memoir of Anorexia and Bulimia

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「ブリーミアにかかった少女の話」

 昔ニューヨーク・タイムズ・マガジンでシカゴに住む16歳の女子高校生の話を読んだ。その女子高校生は金髪にグリーンの瞳そして長身。チア・リーダーでもある。

 だが、彼女には秘密があった。それは「セルフ・ミューティレーション」(リストカット)。つまり、自分の身体をナイフで傷つける一種の心の病に冒されているのだ。14歳の時に性的な噂を流され、バスルームの中でカッターで自分の足を切り裂き、流れる血を見て、心の中の苦痛が和らいでいくのを感じたという。

 アメリカで「セルフ・ミューティレーション」をおこなう若者は多い。ニューヨーク・タイムズ・マガジンの記事はこの心の病と患者たちを追ったレポートとなっていた。

 この話題を追った本に、自分自身を切り刻む若者を百人近くインタビューしたマリリー・ストロング著の「A Bright Red Scream」がある。

 今回、読んだ本『WASTED』は「セルフ・ミューティレーション」の話ではないが、同様に若者、特に十代の女性がかかる異常食欲が題材となった本だった。

 ひとつは「Bulimia(ブリーミア)」と呼ばれる、食べたあとに故意に食べた物を吐き出してしまう病。そして「Anorexia(アノレキシア)」という食べること自体を拒否する病だ。

 著者であるマーヤ・ホーンバーチャーは9歳の時にブリーミアになり、15歳からはブリーミアとアノレキシアの両方を経験する。大学時代には体重が52ポンド(約23キロ600グラム)までになってしまう。

 何故、食べ物を拒否し、また食べたものを吐き出してしまうのか。著者の答えはひとつではない。家庭環境、痩せた女性を美しいとするアメリカ文化、体重を落とし新しい自分になりたいという願望、自己憎悪、狂気、コントロールを得たいという願い、などがその理由だ。

 著者は食べるという行為に対し、多くの規律を自分で作り出していく。吐いた時に最後まで吐いたことを知るため、必ず色彩の強い食べ物を最初に食べる。食事を取らなくとも毎朝5マイル(約8キロ)走る。その時、必ずドアなど決まったものに触れなくてはならない。もし、触れそこなった場合は1マイルよけいに走る。食べ物のカロリーを計算し、80カロリー(食パン1枚分のカロリー)を1ユニットとし、1日に取るカロリーを31・25ユニットにする。それが達成できたら16ユニット、10ユニットとユニット数を下げていく。著者は最後には1日4ユニットまでに食事の量を押さえてしまう。

 最後まで読み終えても、状況はよくなるものの著者の病が完全に直るわけでもない。そして、この問題はもちろん著者ひとりの問題ではない。

 読んでいてどんどん苦しくなる本だった。


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