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『日本統治時代台湾の経済と社会』松田吉郎編著(晃洋書房)

日本統治時代台湾の経済と社会

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 本書は、兵庫教育大学東洋史研究会を前身とする史訪会の会員13名からなる論文集で、「新たな研究成果を盛り込んで体系的に日本統治時代台湾の社会経済史を述べる必要がある」との考えから企画されたものである。


 その13の論文(章)は、つぎのように編著者によって紹介されている。「台湾の物産・金融について、堤和幸は米穀流通と籾摺り業者の土壟間の活動を述べ(第1章)、新福大健は砂糖生産に関連して糖業連合会の活動を述べ(第2章)、池原一磨は品種改良の視点から台湾糖業を述べ(第3章)、浜野勇貴はバナナ産業の推移を述べ(第4章)、河原林直人は茶業をめぐる商人の角遂について述べている(第5章)。松田吉郎は台湾の金融機関である産業組合の役割、及び戦後における信用合作社、農会への継続性について述べている(第6章)。趙従勝は台湾拓殖株式会社による海南島農業開発が台湾経験の海南島移植の側面と海南島事情に適応し、戦時下の緊急的農業であったという二側面を指摘している(第7章)。ここまでの論文は日本統治時代の物産(米・砂糖・バナナ・茶)とその金融であった。特に、従来の研究では台湾の経済は米・砂糖のモノカルチュアという研究が盛んであったが、これらの研究成果によってそうではなく、マルティカルチュアであることが明らかになっている」。


 さらに、つぎのように続けている。「社会資本の整備・運用について、井上敏孝は台湾総督府による基隆などの築港事業の意義を述べ(第8章)、白井征彰は台北上水道整備事業について述べ(第9章)、齋藤尚文は台湾運輸事業を台湾運輸同業組合から明らかにし(第10章)、蔡龍保はこれらの社会資本の技術的側面を支える台湾技術協会の設立とその事業について述べている(第11章)。今井孝司は救済事業・社会事業を述べ(第12章)、黄麗雲は船舶航行と龍船の意義を述べている(第13章)」。


 編著者は、「巻頭言」でつぎのように付言している。「本書の研究成果は日本統治時代台湾における経済・社会建設を「善悪論」で結論づけるのではなく、何故、経済・社会建設を行ったかを問いかけるものである。筆者の愚考では、弱小国日本が欧米列強に対抗するために、日本内地のみならず、台湾、朝鮮、「満州国」、南洋群島の外地の経済・社会を発展させ、「日本帝国」全体のレベルアップによる欧米列強に対抗したものと考えている。この点については読者諸氏のご意見を戴きたい」。


 本書は、「体系的に日本統治時代台湾の社会経済史を述べる」必要を感じて編集されたものであるが、それぞれのテーマの研究状況や執筆者の力量の違いからか、全体を通して均質なものになっていない。それを補うべき、全体のまとめが、わずか2頁の「巻頭言」しかなく、個々の論文(章)を個別に読むことで学ぶことがあっても、台湾を専門としない者にとっては、本書を1冊のまとまりあるものとして読むことはできないだろう。論文集は、ひとりの執筆者によるものであろうが複数の執筆者によるものであろうが、「序章」と「終章」が決め手になる。その点、本書は個々の論文の「日本統治時代台湾の社会経済史」のなかでの位置づけや、その意義が充分に伝わってこなかった。


 本書所収の論文は、「東洋史研究会」を前身としているだけに、近代文献史学を基本にしているものが多い。執筆者のなかには台湾出身者と思われる者がいるが、かれらの視点が日本人研究者に充分に伝わっていないだけでなく、かれら自身の論文も日本が残した文献史料に基づいているために、帝国日本の歴史観が感じられるものがある。地域研究的視点を加えると、文献ではなかなか理解できない諸相に気づいたことだろう。また、現代台湾に通ずるものにも、視点が及んだことだろう。本書で体系的理解が可能になったのであれば、つぎの段階に研究を進めていくことができる。台湾人研究者との交流、議論の発展により、この分野の研究があらたな段階に入ることを期待したい。

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