『Corrections』Jonathan Franzen(Picador USA)
「アメリカ文学界のふたりのジョナサンの話」
僕はこれまで多くの編集者に会ったけど、ファーラ・ストラウス・アンド・ジローのジョナサン・ガラッシとのインタビューはとても印象的だった。いま、ガラッシはファーラー・ストラウス・アンド・ジローの発行人になっているが、会った時は編集長だった。
ガラッシはベストセラーとなったトム・ウルフの『A Man in Full』や、全米図書賞を受賞したアリス・マクダーモットの『Charming Billy』、ピューリッツァー賞を取ったマイケル・カニングハムの『The Hour』など多くの優れた本を世に送り出した。
印象に残ったのは彼の経歴と言葉だった。ガラッシは「編集者はすでに売れている作家の本を出すばかりでなく、新たな才能に目を向けて、自分がよいと思った作品なら、名前が知られた作家でなくとも出版していくべきだ」と言った。
このガラッシの編集者としての方針は、出版社と対立する時もある。事実、ガラッシはランダム・ハウスというアメリカ最大手の出版社をくびになっている。
その後、ガラッシは自分の出版哲学に合ったファーラ・ストラウスに移り、先ほど紹介したような書籍を出版し、同社の編集長を務め、ついには発行人にまでなった。
少し前置きが長くなったが、そのガラッシが編集を担当したのが今回紹介するジョナサン・フランゼンの『The Corrections』。同じショナサンという名前だ。この本は全米図書賞を受賞し、今やフランゼンは現代アメリカを代表する作家となっている。
この本が出た時には、一般の出版に先がけ、宣伝用としてメディア関係者に送られるレビュー・コピーの全てにガラッシの手紙が付けられていた。
手紙の内容は、この作品がファーラ・ストラウスがこれまで出版してきた本のなかでも最高の小説の仲間入りをするというもの。
レビュー・コピーが出るとすぐに大手雑誌が取り上げた。特に『タイム』誌では書評というよりも出版自体をニュースとして捉える記事が掲載された。
僕は約一週間をかけて568ページある『The Corrections』を読んだ。
内容は、3人の子供がいるランバーツ家が舞台となっている。すでに定年を迎え病気を患っている夫とその夫の病気を軽く考えようと努める妻。金融業界で働く長男、レストランのシェフである長女、大学教授の次男。家族は夫と妻以外はすでに生まれた家を離れて暮らしている。
次男は教え子とセックスをして大学を辞めさせられ、長女は経営者の妻と性的関係を持ち、長男の家庭は子供をお互いの味方につけようとする夫婦喧嘩が絶えない。この大きな設定から物語は、どんどんと複雑な人間関係に発展していく。
長編のよさは、登場人物たちの生活が余裕を持って語られるところだろう。著者のユーモアが光り、各人物への感情移入も自然にできる。読んだあとには500ページを超える大作だった感じは残るが、読み進めている間はそんな長さを感じさせない。