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『サンリオデイズ 〈いちご新聞篇〉 - sweet design memories 『いちご新聞』から生まれたキャラクターのヒミツがいっぱい』竹村真奈(ビー・エヌ・エヌ新社)

サンリオデイズ 〈いちご新聞篇〉 - sweet design memories 『いちご新聞』から生まれたキャラクターのヒミツがいっぱい

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 70~80's生まれ女子の皆さん。心の準備はいいですか?

 まず表紙を見てください。雲の泡風呂で遊ぶキキとララ。ふたりの髪の色が今と違いますね。キキは茶色、ララは黄色です。このふたり、79年まではこの色だったのです。私は79年生まれですが、それでも記憶の片隅にこの色が残っています。そうです。この表紙をめくった瞬間から私たちは、全身の「かわいい」成分がほぼサンリオ粒子でできあがっていた、あの頃の自分に戻ってしまうのです。思い出のふたが開いてしまったらもう止まりません。遠い少女時代へ一気にタイムスリップです。

 覚えていますか。サンリオのお店に足を踏み入れた瞬間を。私が小学校の頃は商品を買うとレジでおまけをもらえることになっていました。そのレジに置いてありましたよね、「いちご新聞」が。当時の少女たちにとって「いちご新聞は」それはそれは心躍る読み物でした。折り目がつかないようにそっと持ち帰って、家につくとおもむろに開き、すみからすみまで読んだものです。『サンリオデイズ 〈いちご新聞篇〉』ではこのかわいらしい新聞と、それを彩った70年後半~80年の花形キャラクターたちを紹介しているのです。

 ページをめくるその先に待っているのは、キティやマイメロディなど、今も第一線で活躍しているおなじみのスターたち。そして少女時代に別れたままになっていた、なつかしい仲間たちです。この、なつかしい仲間たちがとにかく、べらぼうに、なつかしい!

(注:ここから先は、なつかしい仲間たちへ贈るポエム調お手紙になっております。乙女心の暴走をどうかご容赦ください)

 タキシードサム。水平帽や蝶ネクタイを着けたブルーのペンギン。ごめんなさいね。あなたのことをこの本を読むまで忘れていました。あなたのタオルを持っていたというのに。マリンルックというお洒落を教えてくれたのは他でもないあなただったのに。ただ、途中からサントリービールのペンギンとイメージが混ざってしまい、あなたのほうを忘れてしまったことを、ここにお詫びします。

 チアリーチャムのみんな。ピアノ教室に通いはじめたときカンペンを買ってもらいました。先生は私の手を血が出るまで叩いた後(当時はそういう先生が多かったのです)「泣くなら帰りなさい」と言いました。「泣いていません」と、涙をこらえることができたのは、あなたたち、暢気な顔をしたうさぎやぶたやねこやぞうやくまが見守ってくれたからです。

 ゴロピカドン! 思いがけない再会に涙がこぼれそうになりました。ピンク、緑、青。髪の色を見ているだけで当時の情景がまざまざと甦ります。パッケージがそれぞれのカタチをしたティッシュを買ったこともあります。結局もったいなくて、使わずに終わってしまうのですけどね。

 マロンクリーム…。あなたよりおしゃれなうさぎを私は見たことがありません。あなたの姿がプリントされた小花柄のポーチを持っていました。ポシェットを肩からかけ赤いスクーターに乗りスカートをふくらませて走っていたあなたは、今もパリに住んでいるのでしょうか。

(暴走おわりました)

 他にも、なつかしい仲間がめじろ押し。ぜひ自分の目でご確認ください。ページをめくるたびに感動の再会があるはずです。私はあまりにもきゃーきゃー言うので家族に「うるさい」といわれました。

 彼らはまったく古びていません。ここがサンリオのすごいところです。「いちご新聞」に掲載された彼らのプロフィールやライフスタイルや商品の数々は、今店頭に並んでいたとしても違和感がなく、賞味期限というものが感じられません。そして「強い」です。圧倒的な存在感があって、肯定的な力に満ちていて、見ているだけで万能感がわいてくるのを感じます。本気でキャラクターをつくるというのはこういうことなのだと思いしらされました。サンリオ、恐るべし。彼らが世界を支配しつつある理由がよくわかります。

 70~80's生まれ女子の皆さん。どうかこの本を読んでください。私は、今、一緒にきゃーきゃー言う仲間を求めています。そして最後にこれだけは言わせてください。私にとってのキティとは、真っ赤なリボンをつけて横を向いている猫ちゃんなのだと。今のキティもかわいいけれど、でも、やっぱりそれ以外は認めたくないのです。その思いをこの本で再確認しました。

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