書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

今井顕

『楽譜を読むチカラ』ゲルハルト・マンテル (久保田慶一訳 音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 演奏家としての将来を夢みつつ練習に余念がない音楽学生たちが「よりよい演奏を目指したい」と思いたった時には何に注目すべきか、そしてそれをどのように実践したらよいのかを懇切丁寧に解説した指南書である。いわゆる「演奏論」のジ…

『歴史を変えた火山噴火』石 弘之(刀水書房)

→紀伊國屋書店で購入 「過去は警告する」 「近い将来、関東や東海地方を大地震が襲うことはほぼ確実だ」という認識が定着してきた。わからないのは「それがいつか」ということだけだ。環境ジャーナリスト、そして環境問題研究者である著者も「過去半世紀近く…

『年老いた猫との暮らし方』ダン・ポインター(岩波書店)<br>『のこされた動物たち』太田庸介(飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 老いは人間だけに訪れるのではない。すべての生き物にとって平等だ。弱肉強食の自然界に生きる野生動物たちにとって、老いによる衰えは死を意味する。 しかし医療の発達により、動物園で飼育される動物、あるいは家…

『日米衝突の根源』渡辺惣樹(草思社)

→紀伊國屋書店で購入 二年前にもこのブログで同じ著者による『日本開国』を紹介したが、その後も継続して行われた地道なリサーチの成果がふんだんに盛り込まれた力作が上梓された。本書には1858年から1908年に至る時代──日本における明治時代──のアメリカ国…

『モーツァルトの虚実』海老澤 敏(ぺりかん社)

→紀伊國屋書店で購入 日本におけるモーツァルト研究を牽引する音楽学者、海老澤敏による最新の著書である。紐解くと、冒頭には一世を風靡した映画『アマデウス』に関する話題が提供されている。この映画は私も見た。いまだに強烈な印象が残っており、それが…

『ほまれ―なでしこジャパン・エースのあゆみ』澤穂希(河出書房新書)<br>『なでしこ力』佐々木則夫(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 2011年夏のFIFA女子サッカーワールドカップで見事優勝した、なでしこジャパン。並みいる強豪、それもドイツを下し、最終戦では今まで1度も勝ったことのないアメリカとの息詰まるゲームとなった。ロスタイムで同点に…

『朽ちていった命 被爆治療83日間の記録』NHK「東海村臨界事故」取材班(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 3月の福島原発事故から半年以上の時間が過ぎた。広範囲の地域に被害がもたらされ、津波によって家を失わずとも戻れない方々がたくさんおられる。これからどうなるのか、子供たちの健康は…などなど心配はつきない。 1986年4月26日、ウク…

『グレン・グールド 未来のピアニスト』青柳いづみこ(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 グレン・グールドに関する新しい評論が上梓された。「ピアニストとして演奏活動に携わっている現役同業者の視点から見て、グールドの心理と行動を解き明かす」というユニークなアプローチで、同じくピアノ演奏を生業としている私にとっ…

『ピアノと仲良くなれるテクニック講座』パスカル・ドゥヴァイヨン(村田理夏子訳、音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 ピアノの演奏テクニック関連の本は数多い。書き下ろしの解説書や海外の書籍の訳本、そして本書のように音楽月刊誌における連載がまとめられた体裁のものも少なくない。いずれにせよこうした本の読者たちは向上心旺盛で「何かを得よう」…

『まんがで読破 若きウェルテルの悩み』ゲーテ(イースト・プレス)

→紀伊國屋書店で購入 ゲーテといえばドイツの古典文学のなかでもひときわ大きくそびえたつ、大きな山のような存在だ。まさに「歴史に残る文豪」のひとりに違いないが、昨今の本離れ著しい若い世代の人たちにとっては、いささか縁遠い存在だろう。 その昔、テ…

『原子炉時限爆弾』広瀬隆(ダイヤモンド社)

→紀伊國屋書店で購入 「大地震におびえる日本列島──日本に住むすべての人にいま一番伝えたいこと」 未曾有の大地震、東日本大震災の揺れと津波が引き起こした福島原子力発電所の事故は、自然の力の圧倒的なパワーと、人知によって制御できることの限界とを私…

『ウィーン・オーストリアを知るための57章』広瀬桂一・今井顕編著(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 2002年に上梓された『ウィーン・オーストリアを知るための50章』の改訂版が完成した。章の数も7つ増えた上に、旧版では4つしかなかった「コラム」が17にもなった──というわけで、本書には表題の地域に関する詳細な情報および洞察と並ん…

『老いの才覚』曽野綾子(ベスト新書295)

→紀伊國屋書店で購入 今、評判の本だ。書評を通じて本好き諸氏の興味を刺激し、購入をうながすことなどまったく必要ないと思われるが、自分自身が「親の介護」という現実にどっぷりはまってみての感想を述べてみたいと思う。 私は年齢的に50代後半に突入した…

『演奏者勝利学 実践ノート』辻秀一(ヤマハムックシリーズ90)

→紀伊國屋書店で購入 「ベストパフォーマンスを引き出すために」 2009年9月に紹介した『演奏者勝利学』はその後も順調に売上を伸ばし、楽器店の書棚に欠かせない存在となっているようだ。その続編として『演奏者勝利学実践ノート』という冊子が出版された。…

『ピアノと向きあう』奥千絵子(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「芸術的個性を育むために」 まさに「かゆいところに手が届く」本である。ピアノの演奏に習熟していく過程で生じるさまざまな課題のとらえ方と、それらを解決するための段取りがわかりやすくまとめられている。あとがきに著者自身がいみ…

『倍音』中村明一(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「音・ことば・身体の文化誌」 2006年7月のブログで紹介した『「密息」で身体が変わる』の著者、中村明一が新著『倍音』を上梓した。人間同士のコミュニケーション手段として欠かすことのできない「音」の倍音構成をもとに考察された文…

『日本1852』チャールズ・マックファーレン、渡辺惣樹訳(草思社)

→紀伊國屋書店で購入 「ペリー遠征計画の基礎資料」 1852年7月に、日本に関する情報が集約された書籍がニューヨークで出版された。この4ヶ月後にペリーはアメリカを出航し、日本に向かっている。東インド艦隊司令長官であり日本派遣特派使節としての任務を負…

『音楽用語ものしり事典』久保田慶一(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 前回にひきつづき、音楽界で使われる言葉に関する書籍をもう1冊紹介したい。関の『ひと目で納得! 音楽用語事典』が演奏者や指導者をターゲットにしぼり、自身の表現をより豊かに、きめ細かく構成するために役立つ参考書なのに対し、久…

『ひと目で納得! 音楽用語事典』関孝弘 ラーゴ・マリアンジェラ(全音楽譜出版社)

→紀伊國屋書店で購入 音楽書籍の中では常に売れ筋上位にランキングされている『これで納得!よくわかる音楽用語のはなし』(2006年9月の書評で紹介)の姉妹版が登場した。「これで納得!」が「ひと目で納得!」になったところからも想像できるように、新著で…

『仕事にすぐ効く魔法の文房具』土橋正(東京書籍)

→紀伊國屋書店で購入 私はステーショナリーが大好きだ。見ているだけでも楽しく、わくわくしてくる。世の中、とりわけ男性諸氏の中には私のような人が多いのではないか、と密かに感じている。ポケットマネーで買えるものが多いのも、うれしさのひとつだろう。…

『ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール』吉原真里(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「市民が育む芸術イヴェント」 毎年世界各地で若いピアニストの登竜門となる、大小さまざまなピアノコンクールが開催されている。しかし数の多さが災いし、たとえ上位入賞しても、それがプロのピアニストとしてのスタートに必要な「ピア…

『心の野球』桑田真澄(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 「超効率的努力のススメ」 桑田が高校から読売ジャイアンツにすんなり入団し、清原が不本意にも西武ライオンズに入団せざるを得なかった1986年当時、私はウィーンで暮らしていた。ウィーンで、地球の裏側にある日本でのプロ野球事情が報…

『ピアノ大陸ヨーロッパ』西原稔(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 すでにこのブログで紹介した『クラシックでわかる世界史』や『新編 音楽家の社会史』の著者である西原稔による新刊『ピアノ大陸ヨーロッパ』がおもしろい。西原は18、19世紀を対象とする音楽社会史や音楽思想史の専門家だ。本書も19世紀…

『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』礒山雅(講談社学術文庫1991)

→紀伊國屋書店で購入 バッハ生誕から300年たった1985年に上梓された『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』が、このたび改訂された。著者の礒山は音楽研究の世界では誰もが一目置く存在だが、とりわけバッハ研究家として八面六臂の大活躍中だ。 原著は礒山にとって…

『ピアノ教室パワーアップ大作戦』(ヤマハムックシリーズ41)<br>『生徒を伸ばす! ピアノレッスン大研究 』(ヤマハムックシリーズ44)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「自分のピアノ教室をレベルアップしたい先生へ」 子供のお稽古事のひとつとして、ピアノのレッスンは常に人気が高い。聴覚の発達を意識した早期教育として、保育園の年頃からレッスンを開始するのも決して珍しいこ…

『挑戦するピアニスト──独学の流儀』金子一朗(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「どう練習したら上達するのか悩んでいるピアノ学習者のために」 著者の金子はピアニストとして活躍中だ。デビューは2005年、彼が40代になってからで、年齢的にはかなり遅かった。しかしデビュー後の演奏は多くの人を魅了し続け、ファン…

『正しい楽譜の読み方 バッハからシューベルトまで』大島富士子(現代ギター社)

→紀伊國屋書店で購入 「ウィーン音楽大学インゴマー・ライナー教授の講義ノート」 日本で楽譜と言えば、まず五線譜が思い浮かぶだろう。「オタマジャクシは苦手でして…」と敬遠する人も少なくない。慣れないうちはとまどうものの、親しんでみれば実に良くで…

『日本開国』渡辺惣樹(草思社)

→紀伊國屋書店で購入 副題に「アメリカがペリー艦隊を派遣した本当の理由」とある。帯には「捕鯨はたんなる口実だった!」と大きく印刷されている。江戸幕府の鎖国政策が19世紀になって解かれ、日本開国、そして明治維新に至った日本史を解析するために何か…

『六本指のゴルトベルク』青柳いづみこ(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 講談社エッセイ賞という賞がある。昨年は立川談春の『赤めだか』が受賞した。一世を風靡した酒井順子の『負け犬の遠吠え』もこの賞を受賞している。第25回となる今年度の賞が青柳の著書『六本指のゴルトベルク』に授与されたと聞き及び…

『石を聞く肖像』木之下晃(飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 おもしろい本に出会った。写真集だ。世界的に活躍している200人の音楽家のポートレートである。撮影は木之下晃。音楽家の撮影においては誰もが一目を置く写真家だ。1984年から85年にかけて小学館より出版された『世界の音楽家』という全…