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『CREAM Royal Albert Hall 2005』<br>(ワーナーミュージック)<br>『LEGENDS Live at Montreux 1997』<br>(コロムビアミュージック)

CREAM Royal Albert Hall 2005

→紀伊國屋書店で購入

LEGENDS

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「where the shadows run from themselves
 来週はマジソンスクエアガーデン
 行けそうもないおやじロッカーの宿命」

CREAMとはエッセンスという意味
精華、粋(すい)、凄い…という意味もあるけど、初めからのLEGENDS

サンボーン、クラプトン、マーカスミラー、スティーブガット、そしてジョーサンプル、間違いのない良質の上質のライブ、Live at Montreux 1997。誰一人として余裕のない者はいない。クラプトンがラリーカールトンでない緊張感、エリックゲイルでもなく、コーネルデュプリでもなく、335のセミアコストラトのソリッド感になっても(あっ!と少し外した?)それでも安心して聴ける。going down slowで眼鏡をはずしてリラックスするクラプトン。自分をそのまま任せられる至福のライブ。

真剣に見なくていい。贅沢な、これほど贅沢なBGV, BGMはない。

1日が終わり、1週間が終わり、そして今年も夏が終わり、秋が深まる深夜のベランダで、ひんやりとした夜景と雲ににじむ月を見ながらのjazzとbluesとwineの至福の時は、あの人にも伝わるだろうか。いいんだよなあ、分かるよな、このスローなリフ。ゆっくりとベランダで、サンボーンの音がかすれて、それを追うクラプトン。グラスを月にかざしてリズムを取ろう。月しか見ていないし。弘兼憲史もそんなシーンを描いてた。あれは島耕作がニューヨークだったか、美人劇場だったか。

In a Sentimental Mood〜Layla〜Everyday I have the Blues

そう、毎日がブルースさ。任せてくれよな。

あの日以来、今夜もMt. Fujiは見えないけれど、分かるよな。Can you see the moon ?

・・・

1997年は丁度、クラプトンがJourneyman(旅がらす、職人)以来9年ぶりのオリジナルPilgrim(放浪者、巡礼者、そして新参者)の完成が間に合わず、Montreuxのメンバーとやや精神的にも迷ったソロ公演を行なった年。その前の来日1995年にはnothing but the blues tourという客に媚びないクラプトンの決意を感じる最高に徹底したブルースライブを披露してくれて、その後の何年間かの間、クラプトンも私も次を模索する不安定な日々であったというシンクロニシティ

場所は変って、今年の5月、英国ロンドン、ロイヤルアルバートホール。

私も行きました、いや、このライブじゃなくて、アルバートホールそのものを見に。

「ここだよクリームが解散したのは」と、最上階のバルコニーから円形のフロアを見下ろす。はあ〜とため息。「ここが私のスターティングポイントだった」と決意新たにホールを後にしたものです。

ブライアンメイがあの頃に戻った顔で目を輝かせて観客席にいる。

クラプトンにしても、ジャックブルースにしても、ジンジャーベイカーにしても、音の端々に愛を伝えようとしているのか、不満をブチまけたいのか、分かる瞬間がある。本当に。でもこのリユニオンは、目を閉じて、指に思いを乗せて、今までの人生を思い出している。確かに。

ジャックブルースだって椅子にこしかけながらだって、フレットレスで音を外さない。外す訳ないじゃないか。クリームは生きながらのレジェンドだぜ、見くびっちゃ困る。誰もそんな・・・。何言ってんだ、俺達の神様じゃないか。

来週はMSG、マジソンスクエアガーデン。でも行けそうもないな…とか、そんな現実、それもおやじロッカーの宿命さ。でもそんな気持ちがあるから誰にも負けない。何を言われても、余裕のヨッちゃんさ。

おやじロックの粋(すい)

そんな下世話な表現でも構わない自信

ロック魂は誰にも負けない

ジンジャーベイカーがボーカルをとってスティックを投げる

そしてsleepy time time

この時だけでも酔わせてくれ

http://mbs.jp/voice/special/200510/18_1164.shtml

あの時と同じ、I'm so grad

今から37年前、10歳か11歳かの私にとって、地元中延から見た初めての「世界」だった

こんな「世界」があるんだと

Thank you ! とクラプトンとブラッキー

うなずくジャックブルース

来日を果たせなかった病理が迫る

でも37年経っても目だけでうなずく

5月6日(金)

解散した時もアルバートホール

あれだけ不健康だったジンジャーベイカーがたたいてるじゃないか

死んだとも言われてたのに、どこに生きていたんだ?

俺達の魂の中さ、なんて臭い言葉も許してくれ

これが俺の初めてコピーした曲「政治家」だぜ、おいおいそのままじゃん(当たり前)

rollin' and tumblin'

stormy Monday, Wednesday is even worth

we might be going wrong, but that's alright...

うちにはクラシックギターしかなくて、弦をスーパースリンキーにしてチョーキングとかしてさ、指は痛いわ、ネックは太いわで、ませたガキだぜ。源氏前小学校とか何だか由緒ありそうでなさそうで、中学は中学で荏原5中フォーク集会とかでそのクラシックアコギをバイオリンの弓で弾いて、エレキなんて持ってないからさ、キーキー散々な音だったわけ。皆「あいつ何?」とかポカーンと口開けてて、おいおい、ここは「幻惑されて」なんだから、うお〜とか言ってくれよ…とか妄想も虚しく、仕方がないから、長谷川きよしの「別れのサンバ」から「戦争を知らない子供達」に入りました。どこが「幻惑されて」なんだか・・・。

俺達は基本的に真面目で、影で退廃的で、その2面性、任せてくれよな、双子座だからしょうがない。受験勉強とかしながら、ヘッドフォンで聴いたロックは絶対に負けない。そんな感じで真面目な37年の生活も、こうやって復活されると今までが全部肯定されるみたいで、許せることも許せないこともロックとともに俺のもの、誰のものでもない。

観客を裏切る曲を持ってくる気持ち、分かるんだな

ここで入れようぜ、この曲、自分達だけが楽しむために

だから、簡単に分かるなんて言わないでくれよ

媚びない、群れない、そう、毎日がブルースさ

おじさん、おじさん、最前列で携帯で写真とるなよ

そういう世代じゃないって、俺達

もっとうつむき加減で体をゆすらなきゃ

それにしても、至福の笑みを浮かべるオーディエンス、ロックは私達の時代のもの、誰にも負けない

・・・

夕方、うちの子と渋谷で待ち合わせた日は、私は仙台からの出張の帰りで、新幹線の中でその手の格好に着替えて直接渋谷へ、荷物は新横浜のコインロッカーへ。JRのホームの五反田の方にいれば分かるから、と言っても、中学2年にはまだ不安だったかもしれない。ラーメン博物館って言ってもそう何杯も食べられないし、でもせっかくだからラーメンで腹ごしらえしてから行くか。

実は小さい頃から武道館とか何回かクラプトンは見せていたけれど、いつもアンコールのレイラまでダッコされたままぐっすり寝ていた感じだから、意識してクラプトンを見たのは、あの横浜が初めてだっただろう。考えてみれば、うちの子はその時ちょうど私が武道館でZeppelinを見た時と同い年だった。

実はその日、クラプトンは「我々のために」特別にレイラを2回弾いてくれた。これ絶対うちのためだよ。ファン心理はそんなもの。うちらには特別な思い入れがあるし。しかし、アンプラグドバージョンとオリジナルバージョンを1回に聴けるなんて、後にも先にもこのツアーだけだったし、そのライブDVDにも片方しか入っていないし。これは絶対クラプトンがわざわざ今夜のためにセットリストに挙げてくれたんだよな。

仕上げはOver the Rainbowで、何かうちの子が私の横で、こんな「世界」があるんだと、目を見開いてステージを見てて、こんな瞬間は2度と来ないんだろうな、と。

・・・

お父さんが死んだら、このビデオを見てくれよな。

そして必ず生まれ変わって、バークリーに行って、お前達の生きている内に、新人でデビューするから、それまでぜったい生きているんだ。生き延びるんだ、何があっても。

どこかの場末のライブハウスか分からないけれど、届かないかもしれないけれど、この地球のどこかでレイラを弾いているから、耳をそば立てて聴いていてくれ。

あの日、名前を決めなければいけない最後の日、もう夜中の12時をとっくにまわっていた。迷いに迷ってベランダに出て月を見上げて、そのまま視線を下げると、はるか向うに本当に富士山が見えたんだ。夜の夜中に黒いシルエットで。そして、富士山が見えたから名前を決めたんだ。だからいつか、夜中に富士山がシルエットで見えた日には、目を閉じて聴いてほしい。どこかでアンプラグドのイントロが聴こえるかもしれないから、そうしたら、そこに伝えたい気持ちがあるから、月と一緒に、月にグラスをかざして聴いてくれ。


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