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『Rock Between The Lines<br> ロックの英詞を読む』ピーター・バラカン(集英社)

Rock Between The Lines<br> ロックの英詞を読む

→紀伊國屋書店で購入

BGM(Stanley Smith/In the Land of Dreams (2002))

「もう返して
 no one's case
 esthetic is a hell
 asiya de」

すでにレセプションの時間は過ぎていて足早に改札口へと急ぐ。
最近の改札口は両方向から入れるようになっていて、でもこの時間帯の国際展示場の改札はガラガラなのでどのラインも使える。手元のパスを確かめながら機械に入れ、出て来たパスを取り上げると、出るところをふさぐかのように目の前で鞄の中の探し物をしているのがLucyだった。

「ハイ、Lucy、ここで何やってるんだい?最近どう?」

「アー、Hara-san、ファインよ。これからビッグサイト?」

「そう、もう始まってるけどね」

「アーハー、エンジョイ」

彼女はチャイニーズアメリカンで、前回会ったのはスペインの何とかコンポステラだったか。石畳の歩道に出たところのカフェにいた彼女が遠目に小さく手を振っていた覚えがある。

「ちょっと待って。私、テキサスに移ったの。これ新しい名刺、受け取って」

「アー、サンクス、グッドニューズだね」

「まあね」

「じゃあまた、気をつけてね」

こんなに誰もいないアジアの日本の東京のお台場の国際展示場の改札口でバッタリ会ってもそんなもんかなという感覚が嬉しかったりする。


・・・

次の百万遍のバス停で降りないと、とPowerPointのファイルを確認して急いで PowerBookを鞄にしまう。小銭がないので千円札をくずして、チャリチャリと料金を入れる。「はい、ありがとうございました」とマスクのままでこもった 声の運転手がマイクを切らずに話す。

背中でプシューとドアが閉まり、さてさて京大のベンチャービジネスラボ (VBL)に行くのは右だったか左だったか、と停留所のひさしの下で風景を思い出していると、目の前のコンビニから出て来たのがMorganだった。

「ハイ、Morgan、ここで何やってるんだい?最近どう?」

「アー、Hara-sanこそ何やってるんですか?」

「えっ?京大のVBLに行くんだけど・・・え〜?いつ日本に来たの?」

「今日、今」

「何、またRuggeroの所に行くの?」

「そう、また彼と共同研究で予算申請だよ」

「ふ〜ん、じゃあまた、気をつけてね」

「OK、そちらもね」

Morganは昔、我々の研究室のポスドクで、フライドチキンが大好きなやつ。前回会ったのがマンチェスター。わざわざRachelと一緒に学会の会場まで来てくれた。


・・・

よく旅行中、ソニンちゃんが隣りにいたり、チックコリアが隣りにいたり(ベ ースのパティトウッチもいたってマニア過ぎるが)、安室ちゃんが隣りにいたり、舞の海までいたり。バッゲイジクレイムでは中嶋みゆきさんも隣りにいたし、最後の最後まで鞄が出て来ない最後の2人になって「中々出て来ませんねえ」って隣りで並んで話したのがパンチョさんだった。それにしてもソニンちゃんは体鍛えてる〜って感じで格好良かったし、英語もネイティブっぽかった。

それにしても地球上のどこかの街角でバッタリ友人に会う方がもっと嬉しい。

そしていつも英語をもっとやっておかないと生まれ変わってスタンダップコメディアンになれないと思うし、韓国語もやっておけばソニンちゃんと韓国語で話せたのに、とか思う。


・・・

「Louiseが一人で日本に行くから会ってやってれない?」とPrabさんからメイルが来た。彼らイギリス国籍夫婦は、私ら夫婦と20年来のつきあいで、 Prabさんは2年に1回位来日するので、大体いつも食事をしたりしている。カリフォルニアのシリコンバレー、マウンテンビューに住む彼らは、特に奥さん のLouiseさんは「イギリスに帰りたい」といつも口癖のように言っていた。レストランのあの「エンジョイ」と言われることがどうにも馴染めないと言う。

「12年ぶりの日本、実は切符を取っていることをLouiseに言っていないんだ。 サプライズだからよろしく」のような話だった。

そしてその日が来て、朝出がけに電話をして、夕方ホテルのレセプションで会った。

「アー、Hara-san、元気でしたか〜?」と上手な日本語でハグ。

「Louiseさん、何年ぶり?」とか話す内に英語になった。

「そう、サンフランシスコ空港のチェックインカウンタでPrabが「通路側?窓側?」とか言っている内もロンドン行きと信じていて、両親にも「明日ね」な んて電話していたし、いつもの便の出発時間が変ったんだなとか思っていたらPrabが「じゃあこれ」と20年前の東京のガイドブックと当時のアドレス帳とボーディングパスを渡してくれて初めて自分は東京に行くんだと気がついた。本当サプライズ!私は東京大好きで、いつもまた行きたいって言っていたから。 でも暮のクリスマスにロンドンに行って、またすぐ切符あるけどって言われて何でかな?と思っていたけど本当に嬉しい。前回は横浜で会ったわね。皆さん 元気?」

「彼らは皆ファインだよ。ちょうど今、子供二人とも入試で、会えなくて残念ね」

そんなこんなの話から家族や子供や昔の話にさかのぼった。

「PrabはHara-sanには連絡取ってあるから、後はこのアドレス帳から昔の友達に連絡してみたら、とかだけど、もう20年も経つと連絡先が変っていて中々見つからない。特にMiyoko-sanとPeterに会いたいんだけど、web見たら沢山出て来て、これは無理だなって思って。日本にいた時はPeterからは日本の情報をいっぱいもらったけど、もう私のこと覚えていだろうな」と少し寂しそうに言う。

「Hara-sanはMiyoko-sanとかPeterとかって会ったことなかったかしら?」

「ないなあ。そう言えば昔よく言ってたよねその名前。でPeterって?」

「知ってる?Peter Barakanって」

「え〜!知ってるも何も、Peter BarakanってPeter Barakan?」

「そうよ、何で?そんなに有名?」

「有名も何もよく知ってるよPeter Barakanでしょ、チョ〜メジャ〜」

「チョ〜」だけ日本語で、何だ昔に会ってればよかったなあと、こういうの 「ミーハー」って言うんだ、と変な日本語を教えてしまった。

外を見下ろすカフェのカウンタで、そんなこんなで別れた後、日本語の勉強を再開したというLouiseさんにこの本を贈った。


・・・

この本でPeter BarakanさんはLed Zeppelinが耐えられないということでちょっと残念ですが「あんなにリズムの悪いものまねを、何で今さら聴かなきゃならないんだ、みたいな(笑)」とBarakanさんに言われるとそうかもしれないとか思ってしまうけど(危ない危ない)まさかあの変調でわざとリズムをずらしてやっている曲じゃないだろうなあ、まさかですが。それよりも何よりも私はBarakanさんのレコメンドでCDを買うことがしばしばで、いつも中々聴き込んだ渋い選曲に外れのない安心感があります。Louiseさんにそれを言えばよかった。「ミーちゃんハーちゃん」とかより。

しかしまあ何といっても日本語の上手なこと。でも一言「しゃべれない人は努力がたりない」と…ごもっともです。「語学はやる気が半分。やる気がなければ絶対に上達しない。残りの半分は、いかにプライドを捨てられるか。理屈でやるんじゃなくて反復作業」…なるほど。

http://www.eigotown.com/culture/interview/backnumber00/interview0411.shtml


・・・

私は英会話を正式に習ったことはありません。教科書的な本は山ほど買いましたが、書店でレジに行く前に数ページ読んだきり、それ以上行ったためしがありません。で、何が私をこうさせたかというと、勿論ロックだった訳ですが、 そういう意味では一人プライドを捨てた秘密練習をしてきました。小学校の頃から「ロックを聴いていた、ヘッドフォンで〜(王様)」というませたガキだった訳ですが、レコードを買っては歌詞カードを見ない(それ以前に読めな い)という生活があったわけです。今もって新譜旧譜を問わず、初めは「空耳アワー」状態で人には聞かせられない状態で日夜頭の中で歌い続けるのです。 車の中では全くもってソロリサイタル状態で、本当に耳から聞いて適当に歌うのです。

で、例えば

「もう返〜えして

 ノーワンズ ケース

 エステ イズ ア ヘル

 芦〜屋〜で〜」

となって、ちなみに私は全国チェーンのスポーツクラブに入っていますが、出張があると出張先の近くのクラブのベルトコンベアで走ったりしていますが、 海外出張でもそうですが、ジムとそのジムに通う人には土地柄が出ます。で、 芦屋のクラブにも行ったことがありますが、他にはないスカッシュがあったり、やっぱり集まる女性がセレブっぽかったり、出たところのコンビニの駐車場には外車が並んでいたりします。(ベンツでコンビニに来ないでくれ〜)

で、何かというと、誰のでもないケースが盗まれて、返してくれ〜?

誰のでもないケースって、お風呂屋さんのカゴみたいなもんかなあ?

いや?「知恵の輪〜」のケース?って言ってる?・・・でもないか?

で、芦屋のエステで何か問題があったんかなあ?

みたいな・・・んなわけないけど・・・

ですが、車でもiPodでもそんな「空耳アワー」状態で安斎さんみたいに遅刻しないように気をつけています。

しばらくして、歌詞を見ると

「your god is dead

 and no one cares

 if there is a hell

 I will see you there」

("heresy" from "the downward spiral" by Nine Inch Nails (1996))

なるほどね、2行目は遠からず?・・・でもないし。

しかし芦屋でエステはないでしょ、とか自分で突っ込んでどうする。

しかし未だに「もう返〜えして」としか聴こえないので、何か問題があったん かなあ?とかいつも心配してしまう。ただ2行目をどうにかひねらないと「空耳アワー」には投稿できないので未だにペンディング状態が悩みの種です、って悩んでどうする。

Barakanさんの言う「行間を読む」にはほど遠く、未だ修行の身であります。

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