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プロの読み手による書評ブログ

『夢十夜 他二篇』夏目漱石(ワイド版岩波文庫)

夢十夜

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「Led Boots(上原ひろみ)で目が覚めて
 夢の輪郭がはっきりしたところで
 寝入った時は「金子な理由」なのに」

最近、生々しい夢を見ます。
生々しいと言っても、そういう生々しさではなく、登場人物が自分の日常の身の回りの人物で、日常生活と何ら変わりない設定で登場します。日常と言っても過去10年から30年位を含みますが、日頃近くにいる人もいない人も適当に混じり合って登場して話は展開します。それも過去にあった話ではなく、オリジナルの書き下ろし小説になっていて、息がかかる程そばにいて、もしそれが現実に起きたら恐いこともありますし、嬉しいこともありますし。

いつも書いていますように、90分ずつの単発の繰り返しでしか寝られない状況は、時差ボケで仕事をするにはもって来いで、それでもこの4〜5年は、夢をあまり見た覚えがありません、か、見ても起きた時は覚えていないのだと思います。ところが、ここ数週間、自分の何が変わったのか、さらに眠りが浅くなったのか、あまりにも生々しい現実的な夢を見るので、これは夢の中の問題か、さもなくば夢の中でやらなければならなかったことなのか、現実にto do listにあったものなのか区別がつかなくなってきています。

それにつけても一先ず一番の問題は、毎回起きる時に、ここで目を覚ますということは、何かをやらなければならなかったから目を覚まさなければならなかったはずだ、と一番最初に考えることです。

ここは今どこで、自分は今まで何をしていたのか、そして今何をしなければいけなかったのかを考える瞬間に、後数分で何を始めなければいけないのかを考える数10秒が、もしかすると一番、金子な理由がインディーズだったりします。そんな2時半か3時を繰り返す毎日で、このまま再び寝てしまうと後6時間か12時間後のプレゼンに間に合わなくなる。移動時間の電車の中も残り時間に数えてしまう。

***

あなたはPhysical Graffitiみたいですね

あの人はAbout a Sonを観ながら私に言った

Physical Graffitiとは良くも悪くも寄せ集めで

何れにしても、夏目漱石はもう古くて

読んでいてつらい想いが快感だったりします

と言うのはうそで

はっきり言って、もうつまらない

でも頭の良いロンドナーの漱石のことだから

何かあったはずだと一語一句を読み返す

しかし私以上に何が言いたいのか分からない

漱石こそPhysical Graffitiで

永日小品や思い出す事などで

道草はやや赤裸々か

***

オリンピアに行った

アバディーンでもない

シアトルでもない

オリンピア

私の生活はオルタネティブというより

むしろパンクか、でもないか

あれは骨折ではなく、脱臼だった

痛みは想像じゃなく、ずっと痛かった

いつか精神分裂病になると思っていたし

小さな癖でバランスをとっていた

まわりの連中に嫌気がさしていたのも本当だし

あまりの低俗さに同じような**な連中に

飽き飽きしていたし

過敏になってパラノイアに陥り始めた

Kurt Cobain「About a Son」から)

***

どうしても夏目漱石夢十夜を読み直したくて、成田で文鳥と込みの文庫本を買って出たのですが、今の今まで読むことが出来ませんでした。正確には機内で一回開いたのですが、スポットライトでも暗いのと、揺れる機内では字が小さくて、思った以上に私の目が老眼になっていて、その時はあきらめました。シカゴでも時間はありましたが、ターミナルが2転3転してそれどころではありませんでしたし、ホテルについてからは全く時間がない状況が続きました。

それでも夢十夜を読まなければ、と、半ば使命感がありました。

***

成田を出てからアルコールを一切飲んでいない。

「ねえ、Cobain」

あなたは、私の代わりに聞いてくれた。

要はアルコールを買ったり頼んだりしている時間がないのと、アルコールを飲んだら寝てしまうのと、そうは布団屋は卸さないのと、そんなわざとの言い回しでも良いのと、部屋から頼んでも良いけど、あなたはそれでも分かってくれるけど、でもルームサービスが来るので、この昨日のシーツのままのベットの上に書類が散乱した部屋は見せられないので、ドアの外に置いといてもらってもいいのと。

アトランタは時差13時間という絶妙なバランスで、容赦ない文明の利器に時差ボケをキープしたまま1週間が過ぎる。今回の会議はホテル缶詰で、ある意味24時間体制で書類書きに専念出来て、10分あると部屋で仮眠、頭が回らなくなると30分仮眠、と、こうやって作家は窮地に追い込んでいるのかと思いました。

ホテルから竜巻の被害にあったCNNセンターとその向こうのコカコーラミュージアムが見える。そうかコカコーラ発祥の地だったんだ。

いや、待てよ、コカコーラが産まれたとは、もしかして・・・

・・・で、アトランタはかつて禁酒法適用でした。

アルコールを飲まない1週間は「自分をほめてあげたい」と言いたいところだが、アトランタの為にあったんだと、有森さんが銀メダルを取ってから、モチベーションがなくなり、精神的に大変な思いをしてからのこの地で銅メダルを取ったことに自分としては価値があるというもので、何か分かる気がして、私も燃え尽きようとは思いませんけど、少しは有森さんの気持ちに近づきたいと。

・・・と、昼間はこっちの仕事、夜は日本の仕事と、こうやっている内に、北京の次なんてあっという間なんでしょうね。

***

「ねえ、Cobainは?」

そうそう、あなたは、私の代わりに聞いてくれていたんですよね。


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