書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『ASEAN経済共同体と日本-巨大統合市場の誕生』石川幸一・清水一史・助川成也編著(文眞堂)

ASEAN経済共同体と日本-巨大統合市場の誕生

→紀伊國屋ウェブストアで購入

 本書を読み終えて思ったのは、改めてASEAN東南アジア諸国連合)の存在を評価したのと、ほんとうに共同体ができるのだろうかという懐疑の両方だった。たしかに高い目標を掲げ「遅遅として進む」ASEANをみていると、なんでも実現するのではないかと思ってしまう。いっぽうで、汚職を撲滅できるのか、人材の育成が追いつくのか、等々という懸念がつぎつぎに浮かんでくる。


 ASEANは、「2015年末にASEAN経済共同体(AEC)を創設する。構造変化を続ける世界経済の下で、ASEANは経済統合を進めている。従来東アジアで唯一の地域協力機構であり、1967年の設立以来、政治協力や経済協力など各種の協力を推進してきた。加盟国も設立当初の5カ国から、1999年には10カ国へと拡大した。1976年からは域内経済協力を進め、1992年からはASEAN自由貿易地域(AFTA)の実現を目指し、2010年1月1日には先行加盟6カ国により関税が撤廃された。そして現在の目標が、2年後のAECの創設である」。


 「ASEANが10カ国によってAECを確立すると、中国やインドにも対抗する規模の経済圏になる可能性がある。更に、ASEANを核として東アジア大の地域経済協力とFTAが構築されてきている」。

 本書は、3部全13章からなる。部のタイトルはなく、第Ⅰ部は第1~2章、第Ⅱ部は第3~8章、第Ⅲ部は第9~13章で、それぞれの章で基本的な疑問にこたえてくれる。それぞれの章のタイトルは、つぎのとおりである。第1章「世界経済とASEAN経済統合-ASEAN経済共同体の実現とその意義」、第2章「ASEAN経済共同体はできるのか」、第3章「物品貿易の自由化・円滑化に向けたASEANの取り組み」、第4章「サービス貿易および投資、人の移動の自由化に向けた取り組み」、第5章「ASEAN連結性の強化と交通・運輸分野の改善-ASEAN経済共同体に向けた取り組みの柱として-」、第6章「ASEAN経済共同体とエネルギー協力-持続的成長を可能にするために-」、第7章「ASEAN経済共同体における金融サービス・資本市場の連携・統合」、第8章「ASEAN知的財産権協力の展開と現況」、第9章「格差是正」、第10章「東アジアFTAASEAN」、第11章「2015年以後のASEAN経済統合の更なる深化に向けて」、第12章「日系企業ASEAN経済共同体」、第13章「ASEAN経済共同体と日本ASEAN協力-日本ASEAN友好協力40周年にあたって」。


 本書は、2009年に同編著者で刊行された『ASEAN経済共同体-東アジア経済統合の核となりうるか-』(ジェトロ)の続編である。本書のような本は、数年単位の改訂ではもはや追いつかない。常時書き換えと補遺が必要になる。このような状況に追いつくことができるテクノクラートが、ASEANだけでなく世界各国に充分存在するのだろうか。ASEAN経済共同体のメリットのひとつは、弱小国にとってそのような人材がいなくても、ほかのASEAN諸国と足並みをそろえることで、大国に対抗できることである。本書には、それぞれの国の面積や人口など、基本的情報の一覧や地図がない。あると、経済力にも大きな差があることがわかる。その差にもかかわらず経済共同体が実現しようとしているのは、内政不干渉と「遅遅として進む」という基本原則があるからである。ASEAN諸国は、中国、日本、インドといった大国に挟まれ、自律して存続する道として共同体を選んだ。中国も日本も、もはやASEANを対等なパートナーと考えざるをえなくなり、1国ずつの切り崩しは通用しにくくなるだろう。尖閣諸島をめぐる領有権や歴史認識問題などで争っている場合ではない。中国、日本、ASEANに加えて、インド、オーストラリア・ニュージーランドの5つの国・地域が、それぞれ東アジア共同体の核となるのかもしれない。そのとき、韓国はどうなるのか。北朝鮮と統合し、第6の核となるのか。前著に戻って、東アジア経済統合を視野に入れて、日本の立ち位置を考えるためにも、本書は実に有効な本だ。

→紀伊國屋ウェブストアで購入