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『日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊』半田滋(岩波書店)

日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊

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 日本が戦争をすれば、まず最初に戦闘に参加するのは自衛隊である。その自衛隊の現場の声が聞こえてくるのが、最後の章である「第6章 逆シビリアンコントロール」である。その最後は、つぎのことばで締めくくられている。「自衛隊が暴走せず、むしろ自重しているように見えるのは、歴代の自民党政権自衛隊の活動に憲法九条のタガをはめてきたからである。その結果、国内外の活動は「人助け」「国づくり」に限定され、高評価を積み上げてきた。政府見解が変われば,自衛隊も変わる。冷戦後、国内外の活動を通じて力を蓄えた自衛隊を活かすも殺すも政治次第である」。


 「終わりに」では、「人数を数えたわけではないが」とことわったうえで、つぎのように述べている。「海外で武力行使をすることによる自衛隊内部への影響を心配する声は多い。「良質な若者が集まらなくなるのでは」「自衛隊がどう変化するのか想像もつかない」との声は複数から出た。不安は「当事者」だからである」。


 「本書は、安倍政権が憲法九条を空文化して「戦争ができる国づくり」を進める様子を具体的に分析している。法律の素人を集めて懇談会を立ち上げ、提出される報告書をもとに内閣が憲法解釈を変えるという「立憲主義の破壊」も分かりやすく解説」している。著者、半田滋は1991年に新聞社に入社した翌年から防衛庁取材を担当し、93年に防衛庁防衛研究所特別課程を修了している。「長年日本の防衛を取材してきた」ジャーナリストであるだけに、具体的問題が本書で取り上げられている。


 現在、自衛隊幹部を養成する学校は、卒業後の高給、福祉の充実、退職後のことなどで優遇されていることから「隠れた難関校」のひとつといわれている。働いても年収二百万円以下の「ワーキングプア」が増えるなかで、自衛隊員への優遇は魅力だろう。アメリカ合衆国もこの賃金格差社会を利用して、リクルートしている。もうひとつアメリカが軍人を確保できる理由は、外国人だ。アメリカ軍で兵役を積めば、アメリカの市民権が与えられる。戦死しても、遺された家族が市民権を得ることができる。だが、国家予算の支出は、現役軍人だけではおさまらない。退役軍人への支出が膨大になる。負傷・病気になった者、墓地の管理まで、後々まで支出が続く。戦場を経験した人びととその家族、遺族らの心の傷は、お金で解決できない。戦争をすれば、勝ち負けで終わらない負の遺産が永遠に続く。


 したがって、戦争にかんして国家指導者は慎重にことばを選ばなければならない。2014年2月10日の衆院予算委員会で、安倍首相が「北朝鮮」を名指ししたことが、本書で紹介されている。ベトナムの博物館では、1979年の中越戦争のことを「北部国境の戦い」と表記していた。だれでもがわかることでも、名指しすることを避けて関係改善の糸口にしようとしているのである。一般論ではなく、仮想敵を名指しすることで具体的な戦争になりやすいことは、古今東西の戦争が教えてくれる。もっとも、安倍首相は侵略の定義など、すでに明らかになっていることでも、後世の歴史家の判断に委ね、過去の歴史から学ぼうとしないので、名指しすることの意味もわからないのだろう。憲法9条は、1928年の不戦条約から続く不戦・非戦の国際的世論のなかで成立したことも、歴史的感覚だけでなく国際的感覚にも乏しい者には想像すらできないだろう。


 自衛隊の存在について、賛否両論がある。しかし、現に自衛隊は存在し、活動している。その自衛隊が、自信と誇りをもって、国民にも国際的にも評価される活動をするには、どのような体制が望ましいのか。たんなる戦争をする「道具」として扱われるなら、自衛隊員にとってはたまらないはずだ!

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