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『現代デザイン事典(2005年版)』(平凡社)

現在デザイン事典 →紀伊國屋書店で購入

IT業界ほどではありませんが、ここ数年、デザインの世界も急速に姿を変えています。変化の激しい分野のほとんどがそうであるように、この動きは一つの方向からだけ眺めていたのでは理解できません。デザインの場合、少なくとも素材等の技術革新、それによって生じる人とモノとの関係の見直し、さらにそれを裏から支える構造、そして応用分野の広がりといった具合に、モノ・生活・経済・社会という多様な観点からデザインを眺めることが必要でしょう。

この本は1986年に「諸分野のデザインに関する基礎知識と最新情報を把握できる唯一の実践的な事典」として企画された本ですが、2000年に時代変化を積極的に取り込むよう大幅な見直しが行われました。それ以降、「ベーシック」、「コミュニケーション」、「インダストリー」、「スペース」といった章を持つデザイン年鑑的な存在として生まれ変わり、毎年新たに加筆・再編集が行われています(手元には05年版しかありませんが、近々最新版が出ると思われます)。

「ベーシック」はデザイン全体について知っておくべき、歴史・情報・美学的な基礎知識を解説したもの、「コミュニケーション」はグラフィックデザイン、イラストレーション、アニメーション・コミックス、映像、写真、広告、タイポグラフィー、エディトリアルといった領域での動きを俯瞰する内容、「インダストリー」はプロダクトデザイン、現代クラフト、テキスタイル/ファッション、パッケージ、紙と印刷、新素材とデザインといったモノ寄りの領域をとらえ、「スペース」は環境デザイン、現代建築、ライティング、インテリア、空間演出、舞台美術といった空間的広がりを扱っています。
このほか、コラムやデザイン賞グランプリ、コンペ、関係団体リスト、20世紀のデザイン界における「WHO WAS WHO」とブックガイドなどの資料も充実しており、関心領域をより深く知ろうとする際には重宝します。

かつて「デザイン」と言えば、もっぱらポスターなどのグラフィックか家電製品などの意匠のことでした。しかし今や「デザインから新しい時代が見えてくる」と言われるように、デザインという「世界のまとめ方」は、私たちの生活に大きな影響力を持っています。拡大するデザインの全体像を知るうえでも、また新たな可能性を見過ごさないためにも、年に一度は読んでおくべき本と言ってよいでしょう。

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