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『最高学府はバカだらけ』石渡嶺司(光文社新書)

最高学府はバカだらけ

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「アホ大学、バカ学生の真相」

 私の学校はパリにあるインターナショナル・スクールだが、毎年十数名の日本人高校生が卒業していく。その8~9割が日本の大学に進む。大した数ではないが、やはり進路指導には気を使う。特に最近、大学の変化が激しいからである。かつてのイメージとは随分違ってしまった大学も多い。昔は早慶の特色に大きな違いがあったが、今はそれほどでもない。そんな時本音で語ってくれる人の情報はありがたい。

 『最高学府はバカだらけ』とタイトルも挑発的であるが、確かに内容もかなり刺激的だ。アホ大学のバカ学生として例に出てくるのが、名も無い大学ではなく、東大、慶應、早稲田、一橋等の難関校だ。読むと確かにそのバカさ加減にあきれてしまう。就職の面接時に志望動機は「よくコマーシャルを流している」、「大手だから潰れなさそう」、筆者が取材に行くと「ライター」と「フリーター」を混同している。私の教えている高校生の方が増しに見えてしまう。

 講義の出席率は以前より良くなったらしいが、学力は上がっていないどころか落ちている。講義に出ていても、インターネットで遊んでいる。大学をネットカフェと勘違いしているらしい。何かを調べさせると「ネットにありませんでした。」で終わる、ある教師は参考文献にマンガを載せた。新聞記者を希望していながら、新聞を読んでいない。バカ学生の実例が延々と続くのである。

 次に筆者はこのような学生を生む原因について考察を進める。大学側の事情、親の事情、どちらにも原因はある。数少ない大学専門のライターを自認するだけあって、分析は鋭く面白い。裏情報もあるし、数字のトリックも我々が知らない事が多い。筆者の創作と思われる第4章の二つの講演は、極端な例であろうが、妙に臨場感がある。続く章で石渡は、超難関校がいかに「ジコチュー」であるか述べ、「崖っぷち大学」のサバイバルについても解説する。なかなか涙ぐましい努力が見える。

 しかし、この本の真骨頂は終章にある。大学や学生の程度の低さを批判するだけでは、テレビの前でニュースに文句をつけている閑居人に過ぎない。バカ学生が大学に入学して、急成長する例を挙げ、このすばらしい「化学反応」が起こる原因を考えているのだ。入学してくる学生のレヴェルがひどいのならば、何とかしてそれを引き上げてやろうという大学の情熱が見えてくる。「入学前教育」にも種々の工夫が見られる。大学選びの大きな指針となる情報である。

 この本は高校生、中学生、その親、大学・高校関係者の必読書かもしれない。今大学は恐ろしいスピードで変革しつつある。その情報を持たないと大学選びに失敗するだろうし、大学側も生き残れないだろう。最近流行のAO入試のからくりも興味深い。それにしても、準難関校の学生ですら「新書を読んだり、レポートを書いたりする習慣が無い」というのは驚きである。私の教え子たち(中高生)は毎週小論文を書き、相当量の読書をさせられ、卒論のミニチュア版を毎年書かされているというのに……


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