『電子書籍の基本からカラクリまでわかる本』 洋泉社mook編集部 (洋泉社)
電子書籍に関するムックだが、よく出来ている。
まず小飼弾氏と池田信夫氏の巻頭対談。小飼氏はiPhoneアプリで著書を三冊出版し7000部以上販売している実績があり、池田氏は電子書籍出版会社アゴラブックスを立ちあげている。取材者ではなく当事者の立場なので話がいちいち具体的だ。この対談を読むだけでも本書は買う価値がある。
PART.1 はiPadとKindleの使い方のカラー図解だが、A5版見開きなのでなかなか見やすい。新書判ではこういうことはできない。
PART.2 は西田宗千佳氏による電子書籍の基礎知識だが、『iPad vs. キンドル』のダイジェスト版といっていいだろう。前史が省かれている分、記述が浅くなっているが、これで十分という人もいるはずだ。
PART.3 は飯塚真紀子氏と石川幸憲氏によるアメリカの電子書籍事情のレポートだが、わたし自身の興味としてはここが一番面白かった。
飯塚氏の「出版社化するアマゾンと自費出版を目指す著者」はプロの作家がアマゾンで自主出版をはじめた現状を伝えている。素人作家の例は佐々木俊尚氏の『電子書籍の衝撃』で紹介されていたが、現実はここまで進んでいたのである。
石川幸憲氏の「米国の新聞業界はどのようなデジタル戦略を描いているか」は『メディアを変えるキンドルの衝撃』の後半部分のダイジェストだが、同書のおいしい部分はこの記事で尽くされているかもしれない。
PART.4 は電子書籍の普及で日本の出版業界がどう変わるかをシミュレートしているが、目新しい情報はなかった。電子書籍の原価計算らしきものがあるが、固定費をパーセントであらわしているのはおかしい。初版部数の概念にとらわれているのだとしたら、電子書籍がまったくわかっていない。
PART.5 は電子書籍の未来だが、どうやって儲けるかという視点に終始しているのでつまらない未来図しか描けていない。アクセシビリティや古典の電子化にまで視野を広げないと電子書籍の可能性は見えてこないのではないか。
キーパーソンのインタビューが見開き一面か二面にまとめられて随所に挿入されているが、来賓挨拶みたいなもので内容はあまりない。ただのにぎやかしだろう。
ムックなので玉石混淆だが、巻頭対談とPART.2、PART.3はそれぞれ単行本一冊近い中味がある。お買い得である。