『2015年の電子書籍―現状と未来を読む』 野村総合研究所 (東洋経済新報社)
野村総研がまとめた電子書籍に関するレポートで、190ページの本文に100枚の図版がはいっている。図版にはグラフだけでなく、図表、年表、写真なども含まれる。
大量の図版が投入されていることからもわかるように、本書は徹頭徹尾数字で電子書籍の現状と未来を考えようとしたデータ集である。
電子書籍に関するレポートとしてはインプレスが『電子書籍ビジネス調査報告書』を毎年出しているが、7万円もする企業向けの出版なので、個人ではとても手が届かない。こちらは1785円だから、即、買いである。
百科全書的というか、いい意味で総花的な本で、日本では語られることのすくないヨーロッパや中国の電子出版事情についてもページをさいている。
ドイツではKindleがあまり売れていないと聞いていたが、電子書籍端末の売上自体は2009年の8万台に対して2010年に50万台と急伸しており、Neophonieというメーカーの発売したWe Padや、ドイツ最大の書店チェーンであるThaliaの発売したOyoという端末が健闘しているそうである。Oyoはフランスやポーランドでも発売されていて、ヨーロッパ全土に拡大していく可能性もあるという。
日本では先日、ようやく国会図書館法が改正され電子出版物の納本が義務化されたが、ドイツでは同様の制度が2008年にはじまっていたという。
面白いのはヨーロッパでも大人になってマンガを読んでいるのは恥ずかしいという風潮があって20歳を過ぎると「卒業」する人が多かったが、電子書籍のおかげで気兼ねなく読めるようになり、マンガの読者離れがおこらなくなったという指摘だ。電子書籍の普及で日本マンガの市場拡大が見こめるかもしれないというが、とらぬ狸にならなければよいが。
アメリカの電子書籍事情は今さら感がなくはないが、電子教科書に関する話題がまとまって記述されているのはありがたい。
プリンストン大学は画面の大きいKindleDXが発売されると教科書の代用として試験的に導入したが、モノクロであること、ページの書き換えに時間がかかることなどから評判が悪く、別の大学でも利用した学生の8割近くが「次の新入生にはKindleDXを勧めない」と回答した。
ところがカラー液晶でタッチパネルを備えたiPadが登場すると状況は一変し、アメリカでは大学での電子教科書が急速に普及したそうである。
単なるデータ集かと思ったら、ところどころにマニアックな考察もある。日本のマンガ雑誌は出版社によって連載作品の継続方針が異なる。読者アンケートによって連載を簡単に打ちきるところと、一度はじまった連載は長い目で見守るところにわかれるが、最近はマンガの売行きが落ちているので長い目で見守りたくても雑誌に体力がなくなっている。新人の育成にも同じことがいえる。そこで雑誌のWeb版をつくり、本誌で終了した連載をWebで継続したり、新人に執筆の機会をあたえたりするところが出て来ているというのだ。紙の雑誌とWeb雑誌のあるべき分業の姿かもしれない。
最後の章では関連業界に対する電子書籍化の影響が考察されている。おやと思ったのはリアル書店に対する影響は当面すくないとしている点だ。電子書籍の書記の読者はオンライン書店の読者と重なるので、
手軽なデータ集として重宝するのは間違いないし、読み物としても意外に面白かったが、2011年3月の発行なので賞味期限は長くない。来年あたり新版を出してほしいところだ。