『高橋留美子劇場〈1〉Pの悲劇』 高橋留美子 (小学館)
先日、NHKで二夜にわたって『高橋留美子劇場』というコメディを放映したが、近来まれに見る傑作だった。調べたところ原作は高橋留美子氏の短編で、それぞれ三編を組みあわせて48分のドラマに仕立てていた。
高橋氏の漫画は『めぞん一刻』が完結して以来ご無沙汰していたが、少年誌にコンスタントに連載をつづける一方、年に一本か二本よりすぐりの短編を青年誌に発表していて、『高橋留美子傑作集』としてまとめられていた。高校時代に志賀直哉が現役だったことを知った時に似たうれしい驚きをおぼえた。
『高橋留美子傑作集』は第四集まで出ている。第一集から第三集は絶版だが、版型をひと回り小さくした普及版が『高橋留美子劇場』1~3として出ている。なお『めぞん一刻』も第1巻から第15巻まで新装版が入手可能である。完結してから四半世紀たつが世代を超えて読み継がれているわけだ。
さて、『高橋留美子劇場〈1〉Pの悲劇』であるが、『めぞん一刻』が完結した1987年から1993年にかけて発表された短編6編が収録されいる。順に見ていこう。
「Pの悲劇」
表題作だけあって傑作である。ペット禁止のマンションに住んでいるのに夫の上役から困ったペットを押しつけられる話で、筧さんというペット禁止を厳格に守らせようとする住民との攻防が軸になる。
どんなペットを押しつけられるのかはネタバレになるので書かないが、こんなのに来られたら困るだろう。
筧さんは悪役の役回りだが、最後に救っているところで大人の読み物になっている。
「浪漫の商人」
今にも崩れ落ちそうな老舗の結婚式場の話である。三代つづいた結婚式場をヒロインが細腕で守ろうとするが、ついに閉鎖のやむなきにいたる。落ちが弱いが、『めぞん一刻』的な疑似家族の雰囲気が楽しい。
「ポイの家」
夫の上司の近くに越してきたばかりに上司の家の家庭内戦争に巻きこまれる話である。骨董趣味はだいたいが家族に理解されず、ゴミあつかいされるわけであるが、部下の一家の視点から描いているのでよけい切なくなってくる。
「鉢の中」
NHK版『高橋留美子劇場』の第一夜にとられた作品である。ネタバレになるので過激化した嫁姑問題の話とだけ書いておこう。ちょっと理屈に走りすぎたかもしれない。
「百年の恋」
入院中のお婆さんが臨死体験で超能力を持ってしまう話である。超能力をもった後もぼけたままというのがリアルだ。人を食った面白さはさすが高橋留美子。表題作に次ぐ傑作である。
「Lサイズの幸福
家を守ってくれるという座敷童伝説の現代版だが、未熟なお嫁さんをかわいく描こうというのが趣旨のようである。ちょっとぶりっ子かなという感じもする。