『高橋留美子劇場〈2〉専務の犬』 高橋留美子 (小学館)
第一集はオバサンとお婆さんが主人公だったが、第二集からはオジサンが主人公の作品が多くなる。オバサンものとオジサンものではオジサンものの方が断然面白い。作者自身もオジサンの方が描きやすいのではないか。高橋留美子の頭の中には男の脳がはいっているという説があったが、男脳は順当に年を重ねてオジサン脳になったけしきである。
『高橋留美子劇場〈2〉専務の犬』には1994年から1999年にかけての短編6編が収録されている。いずれも粒よりの傑作である。
「専務の犬」
NHK版『高橋留美子劇場』の第二夜にとられていた話だが、原作の方が面白い。「Pの悲劇」同様上役からペットを押しつけられるが、ペットだけではなく凄いオマケがついてくる。NHK版ではオマケをふんわりとした井上和香が演じていたが、黒木メイサのような攻撃的な美人の方がよかったと思う。主人公の夫婦の年齢を原作より若くしたのもマイナス点である。オヤジの哀愁にはそれなりの年齢が必要だ。
「迷走家族F」
NHK版『高橋留美子劇場』の第一夜にとられていたが、原作は冬の話なのに予算の都合だろうか、NHK版は夏の話になっていた。よくできた話だと思ったが、原作の方が自然である。
「君がいるだけで」
NHK版『高橋留美子劇場』の第二夜にとられていた話である。NHK版は最高だと思ったが、原作を読むといろいろ不満が出てくる。
会社が倒産したために失業した元重役が弁当屋でアルバイトをはじめるという設定である。NHK版では主人公を綿引勝彦が演じて迫力だったが、原作のオヤジはもっと強力だ。綿引は最初から哀愁をにじませていたが、原作のオヤジは登場時には前向きのモーレツ・サラリーマンそのままで、哀愁のかけらもない。そのイケイケドンドンのオヤジが最後にほろりとさせるところが読ませどころなのである。
アルバイトのタイ人の女の子も原作の方がかわいい。NHKはもうちょっと予算をつけるべきだった。
「茶の間のラブソング」
妻を失った鰥夫男が勘違い恋愛をする話であるが、死んだばかりの妻が恋に水を差すために化けて出てくるという恐ろしい展開である。こんな作品が描けるなんて高橋留美子の中味は完全にオヤジである。「魔法のじゅうたん」のような一部の世代にしかわからないギャグがはいっていてうれしくなる。
「おやじローティーン」
記憶喪失になって自分を13歳と思いこんでしまったオヤジの話である。ただでさえ痛いオヤジをこれでもか、これでもかといじめている。実写版にしたら面白いだろう。
「お礼にかえて」
マンションに君臨する女王様のような住人に秘密の弱みがあったという話である。あまり面白くなかった。