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プロの読み手による書評ブログ

『マドンナの首飾り-橋本みさお、ALSという生き方』山崎摩耶(中央法規)

マドンナの首飾り-橋本みさお、ALSという生き方

→紀伊國屋書店で購入

マヤヤが書いたみさおの本」

前回の続きで、真っ当なジャーナリストの書いた本を

取り上げようと思ってた矢先、

今朝ダウンロードしたe-mailで、がくっと力が抜けた。


さくら倶楽部より宴の御案内

入梅前夜、皆様にはお変わりありませんか

梅雨入りを記念して、また厚労省S氏の異動を祝い、

スコッチと焼き鳥の会を企画しました。

ご多忙とは存じますが、取りあえず飲みませう。

15日、金曜日19時ごろ402号室に、お集まり下さい。

いつものワインと久保田もあります。

 橋本みさお

配信先を大急ぎで確かめると、いつもお世話になっている厚生官僚、

売れっ子女子アナ、NHKの敏腕記者、帝京大ソーシャルワーカー

ALSの当事者に家族にALS協会の若手理事、それに上野千鶴子さん・・・。

あのお、、怪鳥。  じゃなかった会長。

うちは健全なNPOで飲み屋じゃないんですけど(ひや汗)。

(まあ、健全な飲み処といえないことはないですが)

先々週は、東大に赴任されたばかりの清水哲郎先生を呼びつけた。

そしてまたその翌週は看護協会の小川理事だった。

いつもダンディなこのおふたりは、どうにも逃げきれず、

みさおの常連名簿に載ってしまった。

超多忙でも、操メールで直接呼ばれると断れないので、

仕事が終わり次第、練馬のマンションの一室に

駆けつけてくださる。

みさおさんは鼻からの経管栄養だから、

自分で用意した焼き鳥やワインは飲み喰いできないんだけれど、

美しくテーブルを飾って客人を歓待するのは大好き。

寝たきりでも甲斐甲斐しくヘルパーたちに指示出す姿は

料亭の女将と形容されることもある。

だいたい、毎月かならず偉い人たちを集めて

宴会しているALS患者は、世界中でキミくらいでしょう。

人工呼吸器が一時も放せないキミのような人は世間的には

「終末期」「不治の病」「延命」ってことになっているのに

まったく、重病人の自覚なしで、

世にも珍しいALS患者の独居生活をエンジョイしている。

呼吸器ユーザーのみさおさんとの会話は彼女独自の口文字盤。

私には読み取れない彼女の口文字を読むのは、

彼女が訓練をした若い学生ヘルパーたちだ(老練介護者も数名)。

だから、必ず第三者が介在する付き合いになるのだけれど、

そのようなコミュニケーション方法に

無駄のない暖かく強いつながりを感じるのは、

私だけではないだろう。

またITはALS患者の生活に不可欠なツール。

彼女も、かすかに動く足の中指に

タッチセンサーを設置して

夜中でもあちこちメールを打っている.

費やす労力と時間を感じさせない

みさおさんの文章は軽快だけど、

時に皮肉っぽい。

みさおさんが、もしALSじゃなかったら、

私たちはPTA活動でも出会っていたかもしれないね。

だけど、こんな数奇な運命のおかげで、

私たちは出会えたのだ、とも言えるし、

活動の場も、学校じゃなくて霞ヶ関や永田町のほうが

似合ってる、とも言えるかもね。

今回、紹介する『マドンナの首飾り』の作者、

マヤヤこと山崎摩耶さんも、<みさお倶楽部>の常連だ。

昨年は、毎週のように練馬のマンションに通って、

みさおさんの人生の聞き取りをしていた。

赤いスーツが似合う小柄でパワフルな人。

私から見ても、似た者同士のおふたりは、

ヘルパーの吸引問題をめぐってはあちこちで対立していた。

両極の獅子で、看護職の職域と独居患者の生存をかけて

闘った間柄でもある。

だから、マヤヤの筆によるみさお伝の出版は、

在宅医療という戦場を舞台に、

元看護協会理事の山崎摩耶さんが、

日本ALS協会の橋本みさおとの

終戦を誓って,そして、新たな共同戦線の場を

政治に見いだして書いた本だ、と私は読んだ。

というのも本書の中で、みさおさんのヘルパーたちは、

堂々と医療行為をしているが、それを支えてきたのは

地域の看護職という内容で、それこそが真実なのだから。

素顔のみさおマヤヤが垣間みれる本。


→紀伊國屋書店で購入