書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『ザ・ママの研究』信田さよ子(理論社)

ザ・ママの研究

→紀伊國屋書店で購入

「ママとのつきあい方を研究しよう」

 新大久保の韓国焼肉屋で初めて信田さよ子さんにお目にかかった。編集者や書店の人たちが企画した熊谷晋一郎さんの退院祝いであった。たらふく食べた後、喫茶店で2時間ほどみんなでおしゃべりしたが、私は熊谷さんの身体論に夢中になっていて、お隣に座っていらした信田さんとはあまりお話ができなかった。私の人見知りのせいもあるのだが、ああ、あの時この本のことを知っていたら。私はずっとこんな本が読みたいと思っていたのだから。


この「ママの研究」は平たく言えば母子関係に悩める母子や、ママの言動に傷ついている娘のための本だ。「よりみちパン!セ」の一冊なので、もちろんヤング向け。イラストもとてもかわいい。

 本を開くと、まず自分のママがどのタイプに属するか、イエス・ノーのチャートを使って分類することになっている。私もさっそく自分を分類してみた。少女コミック誌のノリである。「どちらかというと家にいるより外が好き」聞くまでもないよ→「エステとかネイルサロン大好き」まあね→「友達は多いほうじゃないかな」かもね→「仕事バリバリふう」自覚あります→それならB。ということで、ページをめくるとこれまた楽しく、AからGの7タイプのママがイラスト、キャッチコピー付きで華々しく登場する。私は「明るさスゴ盛り スーパーポジティブパーフェクトママ」のBタイプということになった。そこでAの「プライドめちゃ高、超ウザママ」タイプを飛ばして、39ページを浮き浮きと見にいく。各章の扉は4コマ風イラスト漫画だ。イラストのママは二つに髪を束ねていて、0点とっても、娘が試合に負けても、彼氏にふられても、いじめられても、ガハハハと大口開けて笑い飛ばして「つぎにガンバ」「大丈夫ふぁいと!」「そんな顔しないの」。その脇で娘はひっそりと呟いている。「そんなママがつらいの…」だ。

 あーーーっと思った。そういえば、私はスーパーポジティブな介護本を書いたばかりだ。それでたくさんの人に好意的に書評していただいたのだが、何人かは「キミのスーパーポジティブについていけない感じ…」と言う風であった。そして、確かにうちの長女はそんな私との生活に長い間かなり窮屈ではあったから、「新宿の母」(超有名な手相占い師)も私の手相で私のそんな性質を見抜いて、「娘さんはお母さんから離れてから開花するよ」と断言したのだった。あの時は、私のほうが反抗的な娘との関係に悩んでいて、新宿の母に相談に行ったのだが、諭されたのは私であった。そして、この本も同様に読める。娘たちのためにかかれた本でありながら、母親に向けてやんわりと関係改善を求めている。

 Bタイプのママの傾向として「大変なママだ。どこから見てもポジティブでパーフェクトなママって、娘にとって大きな圧力になる。反抗するための口実も見つからないし、非難したり文句つける欠点がみつからない」とある。ふむふむ。対策としては「ママにまったく弱みを見せられなくて息苦しいと感じたら、その感じ方を大切にしよう」とある。

「でも、ママのパーフェクトさの裏側にあるものをわかるのは、きっとあなただけだ。でも、だからといって、ママをずっとあなたが理解しつづけてあげなければならないということではない。パーフェクトなママであることに、あなたの責任はない。あるのは、パパだけだ。もしくはママ自身の責任だ。」

 ジーンと目頭が熱くなってしまうではないか。このほかにも、一生「娘」のおしゃれセレブ夢みるプチお譲ママ、ツンデレ小悪魔ママ。ちょいダサ退屈ちょ~平凡のフツ~すぎママ、かわいそうママ、意味不でまじでホラーです恐怖の謎ママ、などがつぎつぎに登場する。どのママも娘を愛するがゆえに自己を過剰に投影したり、甘えたり殴ったりして、母子関係はおかしなことになってしまっているのだが、娘たちはそんなママたちを扱いかねて、遠慮して自立できずにいる。ではママを類型化できたら、次はどうすればいいのだろう。信田さんはさらなるステップを用意している。「ママの研究」として観察を深めていき、ママを対象化しようと言うのである。そしてその方法を易しく具体的に伝授してくれる。

 「こうして、ママという人間が、ママという女性に見えてきた時、ママに関心を持てる自分を発見するだろう。あなたは本当はママが好きなのだ。好奇心は愛情がなければ生まれない。ママのことをずっと好きでいるために、ママを研究するのだ」

「カウンセリングに来ている女性たちが、そんな可能性に少女時代に出会っていれば、ママともっと違うつきあいができたかもしれない」とも。

ティーンの子育てに悩んでいる母親のあなたにも、読んでもらいたい本である。


→紀伊國屋書店で購入