第10位『笑い三年、泣き三月。』木内昇
(文藝春秋/1,680円)
数多くの傑作があった昨年。でも「2011年」という年に出会えてよかったと思えたのは、この小説でした。戦後の浅草、見世物小屋「ミリオン座」に集う、命のほかはすべてを失くした5人。生き残ったことに罪悪感を抱える少年、笑い第一の芸人、生を謳歌する踊り子・・・彼らの体臭や饐えた空気、埃っぽい街の雰囲気が立ち上ってくるかのように、木内さんの筆は混乱の時代を鮮やかに描き出します。あまりにも素晴らしい作品で、だからこそPOP作りに悩みました。でも、この本に美辞麗句は必要ない、胸に残るいくつかの台詞を書けばいいだけと気付きました。「人間、笑いたいときに笑えて、泣きたいときに泣けたら、だあれも映画や実演なんか観ようと思わないのよ」。哀しみを飲み込んだ人間の言葉はなんと力強いことか。失って打ちのめされて、前を向いた瞬間に挫折して、それでもなんとかなるさと生きていた彼らが、いまも世界のどこかに暮らしていてほしいと願わずにはいられません。
〔新宿本店・今井麻夕美〕