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『恋と股間』杉作J太郎(理論社)

恋と股間

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「恋愛って修業ですよね」

 恋愛についての心構えから具体的な実践、めでたく恋愛が成就されてのちの問題の対処法からなる、恋愛&セックス論。ただし、絶望的にモテない男子用。

 彼女が欲しいが出会いがない、ならば、「親やきょうだい、親戚なんかにまずは頼んでみたらいいんです。……親やきょうだいだけではありません。小・中・高の学校の担任の先生、お世話になった保健室の先生、部活の先生、それから、ご近所の方々、会社の上司、檀家、交番のおまわりさん。」。

 きっといまどきの中高生男子なら、世代のちがういろいろな大人たちに「彼女が欲しい」と相談するなど、思いもよらないこと、というより、そんなまねはとてもできないと感じることだろう。

 それで、こうも考えた。もしも私が、親戚やご近所さんや友人の子どもといった、ほんのすこしでも関係のある男の子に、「彼女を紹介して欲しい」と相談されたらどうするだろうと。彼が切実に悩んでいたとしても、私は人生の先輩としてその悩みにどれだけ答えられるのか。かなり困ってしまうと思う。なんとも情けない話である。こんなことだから、人はみな、それぞれの世代やサークルや業界のちいさな世界だけがすべてだと思って、そのなかで行き詰まってしまうのだ。

 そうならないためにはどうしたらいいかの知恵が本書には詰まっている。たとえば、他人に弱みをみせる勇気をもて、男と女は決定的にちがう生き物であるからそのわからなさを受け入れよ、自分をメインにものを考えるな、などなど。すべてみな、恋愛にとどまらず、楽に生きていくための知恵としても採用できるものばかり。

 女性にとっては、男性とはいかなるものかという、いまさらながら納得せざるをえない事柄がたくさん書かれてあるため、私などは女としての我が身をふりかえり、反省することしきりである。

 「男に問い詰められて答える女性の答えやセリフは全部ウソ」とあり、ギョッとする。女性は日常的な場面でちまちまと相手の気持ちを推しはかろうとし、男性に面倒臭がられているけれど、男のほうがいざ核心をついてきたときに女の言うことはたしかにすべてでたらめである。すごいなあ、杉作氏、よくわかってらしゃる。「わかる/わからない」といえば、

 「……男と女がお互いに感じている『ちがい』、そして、そこからうまれる『わからなさ』は、きっとこれからも解消されることはないと思うのであります。

 だって、『わからない』部分が何にもなくなったら、恋愛も、それからセックスだって、みんなつまんなくなるじゃないですか!

 人はね、きっと、『わからない』ものにかかわったりすることが嬉しい生き物なんですよ。わからないなりに一緒にいようする、そういう『無理』に無上の喜びを見出して、自分の世界がたしかに広がったことを実感したい生き物なんです。

 『わからない』ものに対してこそ、ぼくたちの『思いやり』と『想像力』は試されて、鍛えられるんです。」

 とあり、たしかに恋愛は、こういうことが「わかる」ようになるための、かなりよいお稽古だけれども、恋愛以外の場面でもこうした考え方を採用できるようになるためには、人生の修業に終わりはないと思った。

 とりあえず、もしも中高生男子に「彼女を紹介したください」ともちかけられたときの答えを用意しなくては。今のままでは、では私ではだめでしょうか?と言いだしかねないので……。


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