『American Wife』Curtis Sittenfeld(Random House)
「結婚に幸せを見いだせない女性の物語」
人は自分の人生を悲観的にみたり、楽観的に感じたりするが、それはその人が送ってきた人生のありかたによるのだろうか。
よい人生が送れれば、物事を楽観的にみられるのだろうか。また、それまでの人生が不満足なものなら悲観的なものの見方をするものなのだろうか。
今回紹介する小説『American Wife』を読み終わって、僕はそんなことを考えた。
『American Wife』は、ニューヨーク・タイムズ紙が2005年に年間ベストブックの1冊に選んだ『Prep』の著者カーティス・シテンフェルドが今年の9月に発表した新作だ。今回の新刊もニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストの上位に入った。
カーティス・シテンフェルドは何故かメディア受けする作家のようで、この間も「タイム」誌に登場していた。
主人公はウィスコンシン州で1940年代に生まれたアリス。彼女は高校の時に自分の過失による交通事故を起こし、交際を始めたばかりのアンドリューを失ってしまう。
彼女は、自分に罰をあたえるように、結婚するまで守ろうと心に決めていた貞操を残酷な方法で捨てる。その後、図書館員となったアリスは、チャーリー・ブラックウェルという、名門家庭の青年と出会う。チャーリーは粗野で、アリスと共通点はない。チャーリーはこれから政治の世界に打って出ようとするところで、アリスとは政治思想も違う。
しかし、アリスはチャーリーのバッドボーイ的な性格に惹かれ、出会って半年で結婚を決めてしまう。そして、チャーリーは数年後にアメリカ大統領に就任する。
この物語は、アメリカ大統領であるジョージ・W・ブッシュと妻のローラ・ブッシュの人生を下敷きにしている。物語のなかには、ブッシュの政治参謀役であったカール・ローヴ、ブッシュ政権の黒幕的存在だったディック・チェイニー、イラク戦争反対を唱えたシンディ・シーハンと思われる人物たちが登場する。
物語の鍵となる事件の多くが、実際にジョージやローラに起こったことだが、この小説は政治風刺小説ではない。これは、自分では望まなかった特権や影響力を持ってしまった女性のとまどいや、過去の自分の行為に対する呵責の念を描いた作品だ。
そしてなにより、自分とは根本的に異なる人間である男と結婚をした女性の人生を描いた作品である。
アリスは自分の結婚に対して、こう結論を下す。
「 私は違った人生を生きることができたけれども、この人生を生きている。ほとんどの結婚には裏切りがあるだろうと思う。私たちの結婚のゴールは、パートナーシップの力よりも大きな力を持つ裏切りを持ち込まないことだろう」
これはかなり悲観的な人生観だが、多くの人に共通する感覚だと思う。