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『猫毛フェルトの本』蔦谷香理(飛鳥新社)

猫毛フェルトの本

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 よく、切った爪を捨てずに保存する性癖の持ち主がいるが、あれはいったいどういう心理に基づいているのだろう。切られた爪は自分の一部、それをゴミと一緒に葬り去るのは忍びない、という強烈な自己愛のせいなのか、それとも、たんぱく質というものへのこだわり(なんとなく、栄養もありそうだし、いつか何かの役にたちそう)という貧乏性ゆえなのか。


 私は自分の爪も皮も垢も、さっさと見えなところへ流してしまいたい質だが、わが飼い猫に関しては別で、抜けたひげや乳歯を大事に大事に保存している。さらに最近、ブラッシングして抜けた毛を、紙袋にためていったら、たいへんな量になってしまい、捨てるのが惜しくなり、以前、犬の毛で毛糸を紡いでビキニを作っていた女性、というのをテレビで観たことを思い出し、だったら猫の毛でも、とフェルトを作ってみた。

 ふつう猫は自分で毛繕いをする。するとしぜん、自分の毛を大量に飲み込み、ヘア・ボールという毛玉が胃の中に作られ、これを定期的に吐き出す。わが猫もそれをするが、さっき食べたばかりのえさと胃液にまじって、吐き出されたヘア・ボールはちょうど人の親指ほどの大きさ。さわってみると、たくさんの毛が密に絡まって固く、ちょっと、使用前のタンポンのようなので、猫の毛でもきっとフェルトができる、と確信。

 猫毛は外毛と中毛の二層をなしており、フェルトにするには、真っすぐで固い外の毛はあまり適さないのだが、それでもちゃんとフェルトはできた。私はすっかりはまってしまい、ためた猫毛を取り憑かれたようにフェルトにしては壁に貼りつけて悦に入っていたのであった。

 そのふわふわのフェルトに顔をすりすりとこすりつけると、猫のお腹に顔をうずめている時とおなじ安心感が得られるので、これで御守りなど作ってもよいかも、などと思いつつそこまでまめな作業もできずにいた。

 ところで、猫毛でフェルト作り、ってちょっと人には言いづらい趣味、いえ、趣味というより私にとってはほとんど癒しの儀式、みたいになっているのでなおさら言いづらい、でも言いたい、と勇気を出して手芸の大好きな友人にそっと打ち明けてみたら、やはり微妙な表情をされてしまった。なぜ? 羊の毛も猫の毛もおなじ動物の毛ではないですか! 

 そんな私に福音をもたらす画期的な本がこの『猫毛フェルトの本』である。

 本書の著者もやはり、大量に抜ける猫の毛を前に、これでフェルトが作れそう、と思いたったのだとか。メインは猫型の指人形。段ボールで作った型に猫毛を絡ませかたちを作り、そこにビーズの目や、刺繍糸の首輪をつけて出来上がり、というもの。手袋やマフラーにつけるアップリケなども紹介されている。そのほか、猫の抜け毛と健康についてなどのコラムや、猫毛フェルトはゴミの減量化に一役買うかも、といった環境への配慮も。また、著者の飼い猫のほか、本書に掲載された猫毛手芸の材料を提供してくれた数匹の猫たちが写真入りで紹介されている。それによると、ブラッシングしてでた猫の抜け毛を捨てずにためている飼い主が結構いることが判明。またも、私だけじゃなくてよかった、と胸をなで下ろしたのだが、これって猫好きの間ではふつうのことなのだろうか。ともかく、あまたの猫ブログ、はたまた写真集のみならず、手作りの猫ごはんのレシピ本とか、猫グッズカタログとか、猫毛手芸とか、まったく目が離せない猫本の世界なのであった。

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