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『2011年 新聞・テレビ消滅』佐々木俊尚(文藝春秋)

2011年 新聞・テレビ消滅

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「私たち自身が一生懸命考えて、新しいメディアを作っていけばいい」

日本のテレビ、新聞などのマスメディアのビジネスモデルがまもなく崩壊する、ということを事実を元に提示したノンフィクション。著者は、IT分野を専門に、ネットとリアルの世界の両方を取材してきた、この分野の第一人者、佐々木俊尚氏。佐々木氏は毎日新聞で約12年、事件記者してきたという経歴の持ち主。紙媒体というオールドメディアと、ネットという新しいメディアの特質の両面を知った貴重なジャーナリストです。

マスメディアのビジネスモデルが揺らいでいることは、この書評欄でも再三にわたって伝えてきました。

新聞の発行部数を偽装する「押し紙」問題を追求した、黒藪哲哉氏の「危ない新聞」、記者クラブの崩壊をユーモアたっぷりの筆致で描いた、上杉隆氏の「ジャーナリズム崩壊」。ほかにも多数のメディア批判の書が刊行されるようになりました。

しかし、はたから見て、どんなにひどいビジネスをしていようが、それが法的に問題にならず、キャッシュフローが動いている限りにおいて、そのビジネスモデルは崩壊しません。

本書では、そのビジネスモデルが崩壊していることを、さまざまな事実をもとに検証していきます。

今年2008年は、日本のジャーナリズムが手本としてきた、アメリカの新聞ジャーナリズムが崩壊した年でした。

アメリカでも日本同様に、読者の新聞離れによる購読者数の減少と、それにともなう広告収入の減少がずっと続いていました。そこに昨年夏に発生したリーマンショックによる金融危機が追い打ちをかけて、バタバタとアメリカの新聞社が経営危機、廃刊に追いやられていきました。アメリカでは失業したジャーナリストたちが新しい職を求めてさまよっています。

あのニューヨークタイムズでさえ、いつ倒産してもおかしくない、と見られています。

佐々木氏は、アメリカで起きたことは3年遅れで日本にやってくる、という仮説をもとに、日本のメディアビジネスモデルの変化を読み取っていきます。

ウィンドウズが発売されてインターネットによる情報革命が始まり、二つの変化が、マスメディアのビジネスモデルを揺るがしています。

第1に、インターネットの普及によって、情報は無料で入手可能、という常識が人々にゆきわたったこと。

第2に、情報を伝達・入手するために必要なインフラコストが極限まで安くなったこと。

このふたつの大転換によって、インターネットが登場する以前の、マスメディアから読者への一方通行型の情報提供(それに付随する広告)によるビジネスモデルが通用しなくなりました。

ひとりでも、ひと昔前のマスメディア並みの情報発信力をもつことが可能になったのです。

テレビ、新聞、雑誌の現場で働く人たちも、自分が所属するメディア企業としてのピークが過ぎたことは知っています。でも、どうしたらいいのかわからない。私の知人が所属する新聞社では、30代の記者のうつ病が増加しているといいます。将来が見えない。団塊の世代の新聞記者たちは、自分たちの退職金のことしか念頭にありません。記者クラブでの発表資料からのリライト作業ばかりさせられてきた(新聞紙面の多くは発表モノばかりです)、多数の記者たちは閉塞感のために立ちすくんでいます。

ネットの掲示板にアクセスすれば、既存のマスメディアへの批判が溢れています。なかには的外れの批判もあるでしょう。その一部のネットユーザーを敵視、軽視してきたのが日本のマスメディアです。

アメリカでは、オールドメディアの代表格の企業群が、積極的にネットをビジネスに採り入れてビジネスモデルの再構築を急いでいました。日本のように片手間ではなく本気で。しかし、ネットによる情報革命によって、もうネット以前に維持できた収益・組織・人材を維持することはできなくなったのです。

本書を読むと、3年後の2011年といわず、遠からず、日本のマスメディアの崩壊が「表面化」することに納得できます。

これからの数年で、大手の新聞社、テレビ局、雑誌発行元の出版社が、倒産、破産していくことでしょう。または、大規模なリストラの断行、それに抵抗する社員たちによる労働争議も勃発することでしょう。大手記者出身のホームレスも出てくるかもしれない。私の身近では、フリーライターの先輩がホームレスになりました。(すごい雑誌を作るという構想があるんだけど、石井も参加しないか?とたまに電話がかかってきます)

どんな不況になっても、信頼される情報を提供するジャーナリズムは生き残ります。きちんと取材した記事を読みたいというニーズはある限りジャーナリストに仕事はある。ただし、そのジャーナリストとは、大きなメディア組織に所属する社員とは別のワークスタイルになっていることでしょう。

旧来型のマスメディア産業が崩壊するのであって、ジャーナリズムはこれからも必要とされる、と佐々木氏は強く語りかけてきます。

「私たちにとって必要なのは、新聞やテレビじゃない。必要な情報や良質な娯楽、そして国民として知らなければならない重要なニュースにきちんと触れられるメディア空間だ」

「私たち自身が一生懸命考えて、新しいメディアを作っていけばいい」。

情報革命によって、そのメディア空間をつくるためのインフラは整っています。

あとはやるだけですね。


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