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『菊の花道』Yampo(書肆侃侃房)

菊の花道

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ローリングストーンズのデッカ時代の全作品が1980年代はじめに再発されたとき、まだ高校生だった僕はお小遣いをはたいて「ギミー・シェルター」を買った。その後も、友達と分担して幾つか買い集めていった。多分全盤に詩人の宮原安春による対訳歌詞がついていた。いま、実際その頃買ったアナログ盤の「アフターマス」を聞きながら翻訳と英語歌詞を対照してみても、その翻訳の素晴らしさは際立っていると思う。例えば最近再評価が著しいルースターズ大江慎也Words for a Book)などもそうだが、一部の日本のロックミュージシャンにも影響を与えている(”Virus Security”の解説を参照)。

爆裂都市」は家庭教師のアルバイトをしているときに教え子に見るように薦めたら、次の日、「先生、バーストシティー観たよ」とか言って買ったばかりの安全靴を机の下から出してきた。次に行ったらギターを親に買ってもらったようで、家庭教師の後に一時間ギターを教えることになった。多分、ボウイーの「オンリー・ユー」とかそういう曲を弾かせたと思う。その内にその子は大阪の結構ガラの悪いエリアに行くようになって、「先生、ボコボコにやられました」と不良にやられた痣を見せてくれた。この子のお父さんは少々血の気の多い人で、その夜、「おいセイセー、おれの子をよくこんなにしてくれたな」と凄まれてしまった。何とかかんとか言い訳をしていたら、お父さんはどうも酒が結構入っていたらしく、何の拍子か「いやーセンセーはええ男や。その調子でやってくれ」とか言われて、殴られずに助かって結構ほっとした。

バンドの再結成などいまどき珍しくもないが、ルースターズは僕にとって特別なカリスマを感じさせる存在なのだ。

九州のバンド「サンハウス」は兄貴分にあたるバンドである。そして本書の柴山俊之はそのシンガーだった人。本書にあるように種々悶着あった結果、上京せずに出身地の博多に留まった。ルーツを忘れると何かが失われることをこの人は知っていたのだろう。日本のイギー・ポップみたいな人だと思ってきたが、どうやら若い頃は中州でチンピラをやっていたらしい。誰しも影響を受けた人の真似をするのは仕方がないことで、何かのついでで行きたくもないスナックに連れて行かれたとき、柴山俊之のカヴァーの真似をして、二葉あきこの「夜のプラットホーム」をやけくそで歌ったりしたものだ。ルースターズとの創作面での関わりは名曲「風の中に消えた」からだが、他には結構有名な歌謡曲歌手の作詞も沢山やっている。花田裕行がこの人に憧れて弱々しかった声で歌い始めたことを知っているものにとって、本書最後の方にある「花田のように歌えたらなぁ」という独白には泣けた。

(補足)TITLE誌5月号「ロックで旅するイギリス」は今住んでいるリッチモンドの町のことなんかも出てきて良い出来でした。

(林 茂)


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