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『ピサネロ装飾論』杉本秀太郎(白水社)

ピサネロ装飾論

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「異教的ルネサンス その1」

ピサネロは謎の多い画家だ。残存点数は極めて少ない。ブリティッシュミュージアムにメダルのコレクションがあり秀逸。父親に倣いピサネロを名乗るが、ヴェローナの生まれ。当地の聖アナスタシア教会に聖ゲオルギウスのフレスコが残る。

アディジェ川の蛇行部分に囲まれたこの町をシェイクスピアのロメオとジュリエットに描かれた暴君スカルジェリ家が仕切る。ヴェッキオ城の砲先は市民に向けられている。画家は若さゆえに反体制側についたことで町を追い出される。画家は貧しかった。何を描いても異教性を隠せない画家は注文が貰えず、メダル造りは画家にとって貴重な収入源であったろう。

聖アナスタシア教会のフレスコは、肉眼を楽しませるには余りに高いところにあるのだが、美は鑑賞者を直撃するに事欠かない。このエッセイ風の研究を試みた書は、私をもう一度鑑賞者に立ち返らせて呉れて余すところない。

(林 茂)

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