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『マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実 』西岡研介(講談社)

マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実

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「テロリストとたたかうスキャンダル屋」

 本書は、昨年『週刊現代』で24回にわたって連載された「テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」を単行本にまとめたものである。著者の西岡研介氏は、神戸新聞を経て『噂の真相』記者になり、東京地検の女性スキャンダルをスクープして注目された筋金入りの「スキャンダル屋」。ウワシンから『週刊文春』を経て2006年『週刊現代』に移籍してすぐに、JR東日本問題に取り組んだ。

西岡が本書でテロリストと呼んでいるのは、革マル派(正式名称「日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派」)という思想集団である。西岡は、革マル派が世界最大級の公共交通機関であるJR東日本の、主要な労働組合に浸透し、労組を支配するばかりか、経営権に介入しているという、知る人ぞ知るスキャンダルを暴露した。

 このノンフィクション作品の主人公は、JR東日本労組に君臨し続けてきた革マル派最高幹部、松崎明である。この松崎は組織と人間の弱点を見つけ出し、それをネタに権力をふるうことにかけては天才的な手腕を発揮する。西岡のペンによって、革命家、松崎明が、JR東日本労組を私物化し、その豊富な資金で別荘を購入している事実を登記簿をもとに明らかにしていく描写は圧巻である。

 革マル派は、治安問題を取り扱っている公安関係者にとって監視の対象である。しかし、その暴走を止めることができなかったのはなぜか。「公安捜査の神様」といわれた人物、柴田善憲が、革マル派の「ガードマン」に成り下がっていたからである。その柴田は、8年にわたってJR東日本監査役を務め。その間、警察の首脳部に対して、「JR東日本には治安上の懸念はない」と発言し、JR東日本の構造的な腐敗に手を貸していたのである。

 ミステリー小説を読んでいるかのような気分になる。それほど、本書で展開されている事実はドラマチックである。小説と区別しなければならないのは、JR東日本に浸透した革マル派によって多くの鉄道員たちが屈服、挫折していったという重い現実があることだろう。

 西岡は、連載中にマスコミ関係者からこう批判されたという。

「なぜ今さら、『JR革マル派問題』を取り上げる必要があるのか」

 革マル派JR東日本に浸透していることは、一部のジャーナリストにとっては公然たる事実だったのだ。JR東日本の職場が、崩壊している実態を被害者たちはマスコミに訴えてきたが、「マスコミは彼らの訴えを無視し続けてきた。つまりは彼らを見殺しにしてきたのだ」と西岡は書く。無視してきた理由は(1)キヨスクで販売を拒否されたらたまらないというおびえ、(1)JR東日本がもつ莫大な広告料ほしさ、(3)松崎やJR東日本労組から訴えられることに対する煩わしさ、そして(4)「革マル派」そのものに対する恐怖、であるという。

 西岡と『週刊現代』はこの連載によって、JR東日本労組とその関係者から訴えられた。その数は49件。まさに「未曾有の言論弾圧」である。

 暗澹とするしかない。しかし、それが現実なのだ。

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