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『世界一利益に直結する「ウラ」経営学』日垣隆、 岡本吏郎(アスコム)

世界一利益に直結する「ウラ」経営学

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「理想から現実をみるな! 現実からの変化を読み行動するのが経営」

 倒産したアスコムという出版社が、民事再生手続きにはいったとき、刊行されたのが本書です。凄腕経営コンサルタントと、ベテランのジャーナリストによる対談本です。
 この数年、私の専門分野であるユニークフェイス問題よりも、経営書を読むことが増えました。金を稼ぐとはどういうことなのか。このメカニズムを知ることが面白くなってきたからです。

 経営について勉強するには、本を読むよりも実践が一番ではありますが、不勉強な経営者では生き残ることは難しい時代ですから、やはり読んでおくにこしたことはないでしょう。

 日垣隆さんは私がもっとも尊敬するジャーナリストのひとり。少年犯罪事件のノンフィクション、世間の無知をちくりと刺す辛口コラムを読み続けてきました。彼が発行する、有料メルマガ「ガッキィファイター」の読者でもあります。日垣さんがすごい点は、文筆業をビジネスのひとつととらえて、収益性を確保するためにまっとうな努力をしている点。私を含めておおくの物書きは「取材対象への思い」「文筆業はかるあるべし」という固定観念にとらわれて、収益性へ意識を振り向けることができないまま、執筆活動をしていると思います。そんなことに意識を向けているうちに、出版メディアの構造変化による不況のなかで立ち往生している人がなんと多いことでしょう。

 今ちいさな会社に生まれて初めて就職して、経営の現場を間近に見るようになり、収益とはなんぞや、経営者とはどういう人種なのだろうか、と生で勉強させてもらっています。

 経営者の生態は、生で見ると非常に面白いです。借金まみれでも前向きに発言し、笑顔を絶やさない。いまの私にはできない芸当です。この芸当を習慣化して、社員のモチベーションを上げていく社長たちはどういう神経をしているのだろうか。

 岡本さんはこう語ります。

「(経営者が)はたから見て天真爛漫というのはあるかもしれないですれども、本人が天真爛漫というのは絶対にないと思います」

「天真爛漫という状態にずっといられるように常に目指し続けなければいけない」

 

 こうやって、身を粉にして働き続ける経営者たちが最終的に行き着くのは、家族の問題である、と岡本さん。

「コンサルを続けるうち、経営者はいかに今まで家族を無視していたかが見えてくるようになります。家を守っている奥さんの苦しみに気づくようになる」

 40歳過ぎて結婚したばかりの私には、想像できませんが、おおくの経営者は家族を顧みることなく馬車馬のように働いているようです。(そりゃあ、離婚が多いわけです)

 短時間で集中的に仕事をするノウハウをメルマガで公開してきた、日垣さんはこう答えてます。

「家族のためには、仕事の時間を少なくして売り上げを伸ばすのが一番いいわけです。そうすると、単価を上げて、お客さんを増やすのがベストということになる」

「つまるところ、どれだけ時間を短くして効率よく利益を上げるかということに行き着く」

アメリカが震源地の世界恐慌のなかで、どうやってビジネスを展開していくべきか。ひとつの解はありませんが、本書に述べられていることは、おおくの気づきを与えてくれます。

 お二人に共通しているのは、資本主義という環境を熟知したうえでビジネスをやれ、理想から現実をみるではなく、現実から変化を読み取っていけ、というメッセージ。

 経営者をやっていると、見たくもない現実が次々と現れる。そこから目を逸らしている経営者は沈没していきます。経営者はおおくの社員の生活を守らなければなりませんから、判断ミスは命取り。不況のなかで、極限状態になる経営者、社員が増えていくことでしょう。そんな人たちには是非読んでいただきたいです。 重要な箇所は太字になっているので、さくさく読めますよ。

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