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『ダブルキャリア』荻野進介・大宮冬洋(NHK出版)

ダブルキャリア

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「副業が新しい人生を見つけてくれる」

 ひとつの仕事だけで自己実現をしたい。安定した生活を得たい。こうしたささやかな夢は、昨今の世界金融危機による不況のなかでは、非現実的な選択に見えているのではないでしょうか。
 

 そんな人にオススメしているのが「ダブルキャリア」という生き方です。

 まずは生活の基盤をつくるために、定期収入の道として就職する。好きな仕事、会社であればベストですが、そういう恵まれた職業選択ができる人は少数派でしょう。そこで、好きな仕事ではなかった、と腐らないこと。余った時間で、自己実現や、本当にやりたいことをやってみる。

 本当にやりたいことは人それぞれ。趣味、ボランティア活動、旅、留学・・・。

 こうした余暇としての時間を過ごすのではなく、「べつの仕事」=「副業」にやりたいことを見つけた人がいます。

 「二足のわらじを掃く」という生き方です。本書でいう「ダブルキャリア」です。

 

 

「景気や会社の都合に左右されない、自分なりの確固たるキャリアを作る方法はないものか。ある。それが本書で私たちが提案する「ダブルキャリア」(副業)なのだ。「自分らしいキャリアを作る」というと転職や起業を思い浮かべるだろう。確かにそれも一案だが、いきなり会社を飛び出すのはリスクが大きすぎる。私たちがすすめたいのは、副業という形で、もう一つのキャリアをもつことだ。」

 二人の著者は、ダブルキャリアの成功事例、日本における副業の歴史、ダブルキャリアを無理なく実践するための8つのステップまで、丁寧に教えてくれている。

 私が、注目したダブルキャリアの実践者は、「半農半X研究所」を主催している塩見直紀さん。京都府綾部市で農業と社会起業家の二足のわらじを履かれています。

 「X」(エックス)とは自分の天与の才が発揮できる「天職」。「農」も、農業という意味には限定されていません。自然を基盤に置いた生き方を指している、ということです。

 東京で生活していたときに、本書を読み、この塩見さんの考えを「エコロジー的な生き方」なのであまり身近に感じなかったのですが、静岡県浜松市に引っ越してから再読したところ、印象ががらりと変わりました。

 浜松は、浜名湖、美しい海岸線、農林業、グローバルな製造業・・・都市機能のすべてがバランスよく集積している街。「半農半X」な生き方をするには絶好の立地だったのです。

 浜松市で出会ったある社会起業家が、「浜松には、アメリカのシリコンバレーのような街になれるポテンシャルがある」と私に言ったことがあります。その言葉に納得してしまいました。「半農半x」という言葉は知らずとも、私からみるとそのような生き方を自然に実践している人が多くなってきました。そのような人たちは、昨今の金融危機でもあわてていませんでした。

 

 無責任な副業のススメ、自分探しのススメで終わっていないのも良書たるゆえんです。「ダブルキャリアが終わるとき」という最終章では、いくつもの副業をしていく中で本当にやりたいこと、向いている「本業」が見つかったとき、余計な枝を払う必要性をも説いています。

「ダブルキャリアは永遠ではない。人によって違いはあるだろうが、そのうち終わりを告げる可能性が高い。でもその過程で身につけたものや学んだこと、人脈は決して無駄にはならない。それどころか今後、仕事人としてのオンリーワンブランドを築く大切な礎になってくれるはずである」


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