『旅の夢かなえます』三日月ゆり子(読書工房)
「旅は異文化コミュニケーションであり、そして人生そのもの。」
日本は諸外国と比較すれば、高速道路、鉄道、バスなどの交通インフラが縦横に張り巡らされた便利な国だと言えるでしょう。
しかし、日本はどんな人でも自由に移動ができる国になったのでしょうか?
ユニバーサルデザインという視点で見ると、まだそのような社会になっていないようなのです。
本書には、言葉が通じない外国をひとりで旅する全盲の人、頸椎損傷の人が登場します。
身体がうまく動かない障害者、それだからこそ、自分の力で旅をする楽しさは格別!
旅をした当事者のシンプルな感動が、素直でストレートな文体でまとめられています。
目が見えない人にとって、海外旅行の醍醐味の一つ異国の風景を楽しむことができないのでは? と目が見える私は捉えてしまいます。
それは目が見える人間の先入観に過ぎません。
取材者の三日月氏による丁寧なインタビューを読んでいると、その全盲の人が視覚以外の全感覚をつかって、旅を楽しんでいることが伝わってきます!
障害学という学問があります。障害とは、個性的な身体を持った人を排除する社会の側がつくっている、という立場にたつ学問です。
障害のある人達が旅をする上で、立ちはだかるのは、まさに「障害者を排除する社会の仕組み」。
その仕組みに気づいた起業家たちが、問題を解決し、障害をもった人達のための「普通の」旅行ビジネスを提供しています。
しかもその主役は中小企業です。
ユニバーサルデザインの発想で障害者をターゲットにした旅行ビジネスを展開しているのは、大手旅行代理店ばかりではないか、と思っていました。
現実は違います。数人規模の旅行会社が、最高のサービス、ホスピタリティを提供できている。
なぜそんなことができるのでしょうか。
障害者も、普通のサービスを求めている、普通の顧客、普通の人。
その当たり前のことを知った上で、その個性的な身体にあわせたサービスを提供することができているからです。
つぶれかけた下町の旅館経営者は、外国人客を泊める旅館経営を目指しました。
英語は片言しかできない。外国人ビジネスマンのためのゴージャスな内装はない。英語が堪能なアルバイトの人もいない。
それでも、ひとりひとりのお客様のニーズに懸命にこたえていくうちに、すばらしいホスピタリティの旅館だ、という評価が外国人の間で高まっていきます。
旅館の主人は、外国人のお客様が連日宿泊して忙しくなります。でも、日本人宿泊客だけだったときよりも楽しい。ストレスがない。
その理由は、旅館側と宿泊客の立場の違い。
日本人宿泊客は、旅館では上げ膳据え膳を期待し、旅館経営者よりも自分たちの立場が上だと考えて宿泊しにきます。旅館の主人も、お客様のほうが立場が上、と教え込まれてきました。
しかし、外国人客は、宿泊にホスピタリティを求めるけれども、自分でできることは自分でやる、という考え。旅館の主人は、求められたことにこたえていくことに専念して、満足してもらえたといいます。
旅とは異文化コミュニケーション。
異なる身体を持った人(障害者)、異国の文化をもっている人(外国人)は、普通の日本人とは違う何かを求めています。旅という非日常のなかでは、その違いが際だちます。そこが楽しい、だから旅なのです。
ちょっとしたトラブルを楽しみながら、人は旅をします。それは人生そのものでもあります。