『世界一の障害者ライフサポーター』木村志義(講談社)
「障害者に無縁の人間が起業した、障害者就職支援会社」
ユニバーサルデザインについて調べていると障害者雇用の問題につきあたる。
「日本初の障害者専門の就職支援会社」の創業社長、木村志義氏による、起業ノンフィクションだ。木村社長の人柄、障害者雇用についての日本の状況についてわかりやすくまとめられている。
たいへんな不況である。健常者でも仕事がない。障害者雇用についてはどうなっているのか。普段は気にも留めない、障害者雇用について教えてくれる。
大手企業では法定雇用率を達成するためにも、一定の割合で障害者を雇用する必要がある。社会貢献という言葉が市民権を得るようになった、という追い風もある。しかし障害者といってもその心身の状態は多様である。営利企業である以上、戦力となるスキルとやる気のある障害者を雇用したい。このニッチな市場に食い込んで成功したのが、本書の著者の木村社長である。
この社長の面白さは、国際ジャーナリストの落合信彦にあこがれて国際的なビジネスマンになろうとした、子供っぽさにある。ブリジストンに入社。この仕事に飽き足らず、外資系に転職するのだが、社風があわずに独立。障害者とのつきあいがないのに、日本初の障害者専門の就職支援会社を起業してしまう。
サラリーマン時代はいつでも辞表を出す覚悟で仕事をしてきた。独断専行。イケイケどんどん。社員がついていけない。いくら雇っても、社員は辞めていく。ついには、木村氏は、自分は社長に向いていないのではないか、と悩む。まじめに社員に相談するのだ。なんかおかしい。社員から社長としての欠点をずばずば指摘されて、少しずつ社長としてのカイゼンを進めていく。退社する社員がゼロになった時から、社長としての成長が始まる。起業家が、社員に信頼される社長になる成長物語として面白く読んだ。
一般向けのノンフィクションとして、障害者雇用について正確な情報が盛り込まれている(昨年10月刊行時点)。
日本を除く先進国では、障害者差別禁止法が制定されている。障害者差別をした会社は告訴の対象になるという法律だ。いま、日本では障害者雇用は会社の努力規定である。近い将来、日本でも障害者差別禁止法ができたら罰則規定となる。強制力が出てくるわけだ。
日本では、何を持って障害者差別というのか、法的にも、社会的にもコンセンサスができていない。そういうなかで、諸外国と同じような法律ができる流れになっている。法定雇用率である1.8%さえも満たしていない企業が多い。障害者差別禁止法が出来たとしても、どこまで実効性があるのか疑問の声もある。
外国では、企業が障害者から雇用差別であると訴えられないようにコンサルと契約するという動きもある。木村社長は、このような内外の障害者雇用の潮流を見据えながら、障害者雇用支援を進めていく。営利企業として、先のコンサルビジネスのニーズを冷静にみているところはさすがだ。障害者の味方をしている、と情緒的な姿勢はみじんもない。木村社長は、努力する障害者を応援する。深く同意できる企業理念である。
いまは障害者雇用という分野はマイナーで止まっているが、化ける可能性が大いにあると思う。ITが普及したことで、障害者と健常者のスキルの垣根が低くなっている。しかもこの不況である。単純なモノづくり産業は崩壊、衰退していく。高齢社会のなかで、付加価値のついた商品とサービスを開発、提供することが経営の生命線になる。優秀なスキルを持った障害者は、気に入った職場を得たら、健常者のように安易な転職をしない(できない)だろう。企業のなかで安定した戦力となる可能性がある。
低成長時代のなかで、この同社がどうやって成長していくのか。しっかりと見つめていきたい。障害者の就職支援は、先端産業のひとつである。