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『3.11 絆のメッセージ』被災地復興支援プロジェクト(東京書籍)

3.11 絆のメッセージ

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「被災地から遠い「私」と「あなた」が、被災地とつながるために」

 東日本大震災から3ヶ月。震災と原発の書籍が書店の店頭に並んでいる。震災と原発というテーマは、311前には「売れない」とされて、出版店数が少なかった。天災は忘れた頃にやってくる。忘却しないように、という思いで書籍は編まれていく。
 

 本書は6月1日に刊行されている。震災直後から取材に入った複数のフリーランスジャーナリストたちが被災地で見たこと、被災者にインタビューした当事者の肉声を、コンパクトにまとめている。見開きでひとつのエピソードが読めるように編集されている。

 震災直後からインターネットで大量の情報に接してきた人間として読むと、この書籍で言及されていることはすべて「既知の事実」であるかのように思ってしまう。ツイッターでのつぶやきあり、海外からのエールあり、芸能人からのメッセージもある。既視感がある。

 雑誌のようなつくりになっている書籍である。東日本大震災について多くの雑誌が特集を組んでいるが、さらりと読めるような記事はない。本書も同じである。見開きの2頁の読みやすいつくりになっているが、その内容はずしりと重い。内容を咀嚼するには時間がかかる。気力がいる。

 第三者の意見よりも、当事者・被災者の意見が重要だ。

 第一章の「被災地からの手紙」は震災後2ヶ月後に行った、被災者へのインタビューで構成されている。

 南三陸町で被災した63歳の男性は「私たちは海と付き合い、その恵みで生活してきたのです。迷信めいた言い方かもしれないですが、もしかしたら私たちは気づかないところで海を酷使しすぎたのかもしれません」と、海を恨む気持ちはない、と言う。

 石巻市で被災した32歳の男性は、奇跡的に4人家族全員が助かった。母親が保育園に迎えにきた子どもたちは母親もろともほとんど亡くなってしまった、という。保育園に残った子どもたちは避難ができて助かっていた。明暗は、小さな判断とタイミングの違いで別れている。

 同じような体験はネットを通じて大量に読んでいた。既知の事実であったはずなのに、紙に印刷されたプロのライターがまとめた当事者の言葉は、静かに心に響く。荒れ狂う津波を映像というメディアで見てしまった、被災地から遠い土地に生きる人間の私は、311から3ヶ月経って、すでに悲惨な事実を忘れようとしていた。読んでいて気づいた。

 一通り読み終えたとき、被災という事実を概観できたと思った。

 被災地から遠い人間として、被災地に何も出来ない自責の念がある。ただ悲惨な事実を列挙したメディアを見てしまうと、自責の念がわき出てきて消耗してしまう。本書にはそれがない。それはバランスの良さ、編集の妙味があるからだと思う。

 東日本大震災福島原発事故は、取材している人間も、その記事を読む人間も立ちすくむ。その立ちすくみを解消するのは、こういう書籍なのだと思う。


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