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『コンピュータには何ができないか―哲学的人工知能批判』Hubert L. Dreyfus(産業図書)

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「できることの範囲に含まれないこと」=「できないこと」は必ずしも正しい認識ではない。エンジニアは、それがシーズからニーズを作り出すのであれ、その逆であれ、「できること」に着眼して発想する。開発現場で「できないこと」を主軸に考察を加えていたら、上司に怒られるだろう。「ここは大学の研究室じゃない」と。
 しかし、自分の従事する技術の限界を掌握しておくことは非常に重要である。コンピュータは、要素還元主義的な知識フレームの積み重ねによって確実に「できること」の範囲を拡大している。このまま進化して人間を代替する存在になり得るのか、ゲシュタルトの壁はシリコンの挑戦を跳ね返してしまうのか。これは単に知的興味の問題だけでなく、将来の技術発展の方向性を左右する命題である。本書の刊行はすでに10年以上前に遡るが、記述の内容は些かも古色を感じさせない。知性としてのコンピュータに対する洞察は端緒を開いたばかりである。

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