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『ラジオ深夜便 母を語る』聞き手・遠藤ふき子(NHKサービスセンター)

ラジオ深夜便 母を語る

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「すべての「母」に贈りたい」

NHKラジオの「ラジオ深夜便」は今年で20年をむかえたそうである。昭和天皇のご容体報道に備えてはじめた深夜の放送が、緊急報道を第一にして今も毎晩静かに流れており、人気のコーナーがいくつもある。なかで「母を語る」というおよそ1時間のインタビューは1995年から遠藤ふき子アンカー(隔週で番組を担当するアナウンサーをこの番組では「アンカー」と呼ぶ)が聞き手をつとめ、現在も月1回の放送が続く。これをまとめた3冊目の本が『ラジオ深夜便 母を語る』で、刊行時(2009年9月)までに放送で伝えてきた158人の「母」の中から、10人の姿を再録している。

もくじより


母を一人の人間として振り返るとき(谷川俊太郎・詩人)

スノビッシュな女性でした(山田洋次・映画監督)

母の第二ラウンドを戦う(林真理子・作家)

死の床で得た母との和解(山折哲雄宗教学者

平凡に生き、平凡に死んだ(新藤兼人・映画監督、シナリオライター

ぼくの絵にはみな母の空気がある (中島潔・画家)

祖父と母、母と私(青木玉・随筆家)

母に捧げる子守唄(松永伍一・詩人、エッセイスト)

実の母と、育ての母と(やなせたかし・漫画家)

世話さしてもろうて、ありがとう(綾戸智恵・ジャズシンガー)


いずれの母子も苦難と喜びをともに過ごした逸話にあふれていて、成長した「子」が穏やかに振り返り、「母」の生きた時代の匂いまで感じさせてくれている。読みながら、私自身の母に思いが及ぶ。母と私には「語る」ほどの逸話はないが、母が生きた時間への単純な敬意を覚えて、母に、それは私の母に限らずすべての「母」に、この本を贈りたいと思った。生まれた限り誰にも「母」がいて、誰もが「母」を考えることができるというのはすごいことだと、そんな当たり前のことを強く思った。


あとがきに、遠藤ふき子さんが書いている。ご自身の母親としての悩みが、このインタビューをはじめたきっかけだそうである。自分の経験だけにとらわれて一喜一憂していたのが、いろいろなお母さんの話を聞いて、親子の関係も母親の生き方もさまざまあるという当たり前のことに気がついて、すっと楽になったそうである。今まさに子育てで悩んでいるお母さん方にも、この本を贈りたい。ご自身の中にある「母」をそのままに感じられるように、10組の母子と遠藤さんがきっと背中を包んでくれる。


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