『ストーリーとしての競争戦略――優れた戦略の条件』楠木建(東洋経済新報社)
本の売れ行きを日々眺めていると、つくづく、ビジネス書ってたくさん出てたくさん売れるものだと感心する。もちろんジャンルを問わず売れる本もあれば売れない本もあり、そもそもジャンルという区切りも微妙に曖昧ではあるが、それにしても。ビジネス書は熱心な読者を多く抱えているわけで、書店としてはとてもありがたい存在だと思う。
それで(ということもないが)、話題の『ストーリーとしての競争戦略』を読んだ。読んでいるあいだ中、そうそうそうそうと共感が膨らんで高揚感を覚えてくる。自分が毎日の仕事の中で抱いていた「ウチの会社、もっとこうすればいいのに」といったモヤモヤが、具体的・論理的に解明されていくような気になってくる。実際自分がそんな良いことをいつも考えていたのかは大いに?なのだが、そういう気分にさせてくれるところが“良いビジネス書”たる所以なのだと思う。
競争戦略を考えるときは、長くて骨太のストーリーが必要。そうそう。ストーリーにはどこか一点マジョリティと逆を行くような“ひねり”が必要。そうそうそう。結局大事なのは一貫した論理的整合性なのだ。途中で夢物語やあてずっぽうが挟まってしまっては、個々の具体策は全体として有効たりえない。そうそうそうそう。
滔々と語るように書かれた本なので、はまっていくうちに口調が伝染ってくる。会社の会議で「ストーリーが…」とかなんとか口走りそうになって思わず言い換えてしまい、我ながらびっくりしたこともあった。それはまあ浅薄な反応だが、では現実問題、手に入れた知識をいかに自分の仕事で活かしていけるかというと、当たり前だが非常に難しい。
戦略ストーリーはまずエンディングのありようから考えるものとあった。そして、「エンディングを固めるためには、実現するべき「競争優位」と「コンセプト」の二つをはっきりとイメージしなくては」ならない。
書店の成功物語のエンディングとしては、もっとたくさんの人がもっともっと本を読むような世の中になって、その中で選ばれる書店として存続していくこと、つまり、目指すべき「競争優位」としては「WTP(Willing To Pay:顧客が支払いたいと思う水準)を上げる」のが、まあ王道のような気がする。では、一方の「コンセプト」はというと、
「言われたら確実にそそられるけれども、言われるまでは誰も気づいていない」、これが最高のコンセプトです。もちろんここにはジレンマがあります。みんなが食いつくようなコンセプトであれば、とうに誰かがものにしているでしょうし、まだ誰も気づいていないコンセプトであれば、往々にして突飛なだけで終わってしまいます。だからこそユニークなコンセプトの創造は難しいのです。このジレンマを乗り越えるのが本当の創造性です。
結局のところ、現実をさまざまな角度と視野から粘り強く見つめ続け考え続けた末に、もしかしたらある日ふと、吹聴して回りたくなるようなストーリーが頭の中に舞い降りるのかもしれない。万が一そうなったら楽しそうだから、毎日の仕事には真っ当に向き合い続けようとモチベートされたことで、本書を読んだ価値は十分あったのだと思っている。
(販売促進部 今井太郎)