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『構想日本〈第1巻〉日本再考』構想日本J.I.フォーラム[編](水曜社)

構想日本〈第1巻〉日本再考

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 構想日本とは、政策の立案・実現を目的として中立的なNPO活動を行っているシンクタンクだそうである。このNPOが、J・I・フォーラム(JIは、構想日本の英語名 Japan Initiative の頭文字を並べたもの)を毎月開催してきており、このたび100回を迎えた。これを契機にフォーラムの記録をシリーズとして刊行することになり、その第1巻として作られたのが本書である。

 そしてその冒頭は「国益と外交」と題し、同タイトルの第70回フォーラムの記録である。今回のイラク戦争に対する各国の態度に焦点を当て、その裏にどのような事情があったのかを、コーディネーター加藤秀樹の司会のもとで、ジャーナリスト櫻井よしこ京都大学教授白石隆、デフタパートナーズ原丈人の3名がそれぞれの見方を述べている。

 櫻井よしこは、フランスが参戦しなかった裏には、それ以前にフランスがイラクに原子炉などの技術を輸出していた事情があったことを指摘している。原丈人は、日本がイラク戦争支援を表明したとき、それを利用してアメリカ合衆国に対して国益につながるを要求する機会があったのに、それをしなかったのは外国からは謎と写っていると指摘している。白石隆は、原油埋蔵量世界第2位のイラクがアメリカのコントロール下に置かれることになれば、石油を中東に頼っている日本にとっては大きな国益につながると指摘している。

 普段、このような事柄についてあまり深く考える機会も習慣もない私にとって、それぞれの発言者の内容は、はじめて聞くことがほとんどで、しかも、マスコミなどから得られている常識的な情報とはかなり異なるものであった。各国は、自国の国益を考えて決断・行動をしており、国際社会へ発信される表のメッセージだけにとらわれては真意を見失うおそれがあることを、3人3様の言葉ではあるが、共通して指摘している。

 この章のあとには、「外務省改革」を考える、日本にとっての「近代」、武士の生き方、日本の生き方、「都市化」した現代社会、国家とは何か、というタイトルの章が続く。そして、毎回、多様な分野から選ばれて参加した人の発言記録が、集められている。

 実際のフォーラムには、おそらく百数十名の聴衆しか入れないのであろうが、そこで語られた内容がこのような形で世に紹介されることは、参加できなかった私たちにとってありがたいことである。臨場感あふれる発言内容は、必ずしも楽しく面白いという種類のものではない。むしろその逆で、重く深刻なものである。しかし、軽い読み物があふれる現代において、このような重い内容の本は貴重であると思う。

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