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『男子校という選択』おおたとしまさ(日本経済新聞出版社)

男子校という選択

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「ホモ・ソーシャリティにアイデンティティ形成の基盤を求めるという選択」

 本書は、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、男女共学化が進む今日においてもなお、いわゆる中高一貫男子校に進学することのメリットを説いた著作である。


 一読して感じたことだが、非常にバランスの取れた内容であり、社会学的に見ても興味深い指摘が散見されるものとなっている。

 今日、「中学受験は親の受験」という言い回しがあるように、その競争は過熱する一方で、多くの私立校は生き残りをかけて共学化を進めてきた。

そこには筆者が言うように、共学校という「異質性」のある空間を増やそうと、多くの学校が「同質的」に変化するというパラドキシカルな状況が見てとれる。

しかし、それでもなお、日本におけるトップレベルの進学校には、未だに名門男子校が君臨し続けている。筆者は、その要因を解き明かすと同時に男子校に進学することのメリットとデメリットを整理していく。

 特にそのバランスの良さを感じたのは、以下のような記述だ。

「私は「絶対的に男子校が共学より優れている」とは考えていない。ただ、現状よりもう少し男子校の良さが認識されてもいいのではないかと思う。特に、進学校としての評価ではなく、男子教育に特化した学校としての側面においての良さが注目されてもいいのではないかと思う。

 また、「これからは多様性の時代。男子だけの集団で学ぶことは時代に即さない」という表層的な論理を盾に、男子校の存在を否定するような風潮こそ「教育の多様性を損なう」という矛盾を指摘したい。」(P200)

 つまり、単純な進学実績の良さだけでなく、思春期の人格形成の側面から考えても、男子校に一定のメリットが認められるのではないかということだ。

 たしかに、異性と触れ合う機会が不足することは想像に難くない。だが、その一方で、さまざまな議論が指摘しているように、人格形成には、「アウェー」とともに「ホーム」の人間関係をバランスよく保持することが肝要である。

 異性関係も含んだ多様な人々に揉まれていく「アウェー」の人間関係に乗り出す前に、じっくりと気の合う男子同士での「ホーム」の人間関係で、自己を磨いていくことも決して悪い選択ではないだろう。

 むしろこれまでの「男らしさ」が急速に解体に向かい、若年男性がロールモデルを喪失してさまよっている今日においては、こうした処方箋には一定の説得力があるといえよう。

 評者も(そして著者も)、実は中高一貫男子校の出身であり、経験則からしても本書の内容には納得のいくところが多かったし、さらに、以前、宮台真司氏・岡井崇之氏とともに、『男らしさの快楽』(勁草書房)という男性性の変容を扱った共著作を出したことがあるが、そこで訴えていた、ホモソーシャリティ―を通した男性性の再構築といった内容とも本書は共鳴しているようで、思わず読みながら膝を打つことばかりであった。

 表層的な情報に流されて、子どもの進学先に迷っている親御さんたちへ、そして、男子校への進学を考えている小学生たちへ、この本を強く勧めたい。


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