『「女子」の時代!』馬場伸彦/池田太臣 編著(青弓社)
「「女性学」から「女子学」へ」
大学、あるいはその他の教育機関でも同様だと思うが、「男子よりも女子の方が元気がいい」という傾向が顕著である。例えば、成績優秀者をリストアップすると、決まって上位は女子が独占するといった傾向が見られるようになって久しい。
いったい、いつ頃から女子の方が元気がよくなってきたのかと振り返って見た時、評者の経歴を振り返れば、すでにその少年時代からそうした傾向が見られた。
評者は現在、いわゆるアラフォーとアラサ―の中間の年齢だが、同年齢層の女子たちは、いわゆる「アムラー」、あるいは「(コ)ギャル」と呼ばれたように、90年代の消費文化を席巻していたことを思い出す。あるいは、評者には10歳ほど年上の姉がいるが、ほぼアラフォーに位置づく彼女たちは、まさにバブルを謳歌し、就職活動も売り手市場だった。このように評者からしても、すでに元気な女子に囲まれて育ってきたことが思い出される。
さて本書は、こうした元気のいい女子たちの文化に焦点を当てた論文集であり、主に関西在住の研究者で構成された「女子学研究会」の研究成果であるという。編者をはじめとして、ほとんどの著者が甲南女子大学に所属しているというのも興味深い。というのも、これも本文で触れられているように、同大学の学生は、『JJ』(光文社)が1975年に創刊された際に理想的な読者層として想定された対象だったからである(P58)。
そして、ファッション雑誌だけでなく、マンガ、オタク、鉄子、K-POPと、今日活発化する女子たちの文化をとらえるための対象が適切に選択されており、どの章から始めても、面白く読み進めることができる。
こうした女性たちの文化に注目した研究としては、ひと頃まではその社会的な地位向上を志向したフェミニズム的な「女性学」が中心を占めていた。本書にはその残り香が全く感じられない・・・、とまでは言わないものの、それでもそうしたこれまでの「女性学」とは一線を画しているところに、新しさと面白さがあると言えるだろう。
海外でも、「ポストフェミニズム」の名のもとに、一定程度の地位向上を達成した女性たちの文化を、「被抑圧者」のそれとしてではなく、むしろ肯定的に評価すべきものとしてとらえ返していこうとする研究がなされつつあるという。本書は、一面ではそうした潮流に位置付けられるものであると同時に、さらにそれを日本社会の独特の文脈に位置づけなおしたもの(まさに“女子学”!)として、高い評価に値するだろう。
強いて一点だけ問題提起するならば、こうした「“女子”文化」が、今後も下の世代の女性たちに受け継がれて続いていくものなのか、それとも一過性のものなのかという点については、今後の検討をさらに期待したいと思う。
というのも、こうした元気のいい「女子文化」は、最初に記したように、現在のアラフォーやアラサ―たちといった、華やかなりし頃の消費文化の下で育った年齢層たち(=コーホート)に特有の文化に思われて仕方ないからだ。
したがって評者からすれば、こうした文化は下の世代に継承されるものというよりも、現在のアラフォー、アラサ―たちの年齢層が上がるとともに、そのまま持ちこされていくものなのではないかと思いもする。逆にその下の世代では、専業主婦志向の高まりなど、「保守回帰」的な傾向も見られるだけに、なおのことそうした思いが強まるのだが、いずれにせよ、そうした先々の研究展開の可能性まで感じさせる興味深い著作として、本書を多くの方にお読みいただきたいと思う。