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『脱会議―今日からできる!仕事革命』横山信弘(日経BP社)

脱会議―今日からできる!仕事革命

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「効率的な会議のあり方を考えるために」

 「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがある。多忙な合間を縫って、信頼のできる優秀な仕事仲間と意見交換をする時間をなんとか確保できると、頭を悩ませていた問題が一気に解決し、先行きが広がったという経験は幾度もある。

 その一方で、「船頭多くして船、山に上る」あるいは「小田原評定」ということわざもある。評者の経験でも、あるイベントをやるかやらないか、それだけを決めるのに、10時間近くにも及ぶ、それも数回にわたる会議に出たことがある。そこまでいくと、そのイベントをやるかやらないか以前に、無駄な時間を費やすその会議自体をやめることを真剣に考えるべきだったと思う。

 あるいは企業であっても、こうした無駄な会議の嵐に悩まされている人々は多々いる。現代の日本社会では、そのあり方が時代にそぐわない多くの組織が機能不全を起こし始めているようだ。

 機能不全に陥った時の基本は、やはり一歩引いた目から組織のあり方を見直し、より効率的なあり方へとゆるやかに適応していくことだと思う。だが、この基本的なことがなかなかできないようだ。

 多くの場合は、旧来のやり方にしがみついて、Aの問題を解決するための会議、Bの問題を解決するための会議・・・と増やしていき、しまいには増えすぎた会議を整理するための会議が行われる羽目になっていくようだ。

 こうした状況で社会学という学問は、組織の機能不全が、特定の個人の失敗に帰責されるようなものであるというよりも、むしろ社会変動の中で不可避的に陥りやすい問題であることを指摘できる。

 だが、実際にはこれだけでは不十分なようだ。社会学者である私も、しばしば「話し合ってもあまり意味がなさそうなら、初めから会議をやらないほうがいいんじゃないでしょうか」というような発言をついついしてしまい、その「空気を読まなさ」を指弾されたりする。

 そんなときこそ、まさに本書の出番であろう。上記したような社会学的な視点に基づきながら、さらに本書のような詳細で具体的な提案が加わることで、ようやく「脱会議」の見通しが立ってくるように思われる。

 例えば一番印象に残ったのは、会議の「自己目的化」を防ぐためには、会議を会議室でやったり、テレビ会議でやることには十分な注意が必要だという提案である。前者は、とりあえずその空間でそれらしいことをやっているという根拠のない安心感が満たされるだけになる危険性があり、後者は機械のトラブルなどに見舞われながら、結局実のある議論が進まないうちに、これまた何かをやったという感覚だけが残ってしまいやすいのだという(2章 会議の何が問題か)。

 他にも、すぐにでも取り入れてみたくなるような提案ばかりの本書は、身につまされながらも、楽しく読み進めることができる一冊である。そして、この先行きの暗い現代日本の中でも、少しは仕事の効率化が図れるかもという気にさせてくれる、ほのかな希望の書でもある。

 会議に振り回されている多くの方にぜひともお読みいただきたい。


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