書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『ポピュラー文化ミュージアム―文化の収集・共有・消費』石田佐恵子・村田麻里子・山中千恵[編著](ミネルヴァ書房)

ポピュラー文化ミュージアム―文化の収集・共有・消費

→紀伊國屋書店で購入

「ポピュラー文化のミュージアム化/ミュージアムのポピュラー文化化」

 待望の一冊である。子どものころ、博物館に出かけて、いつまでも飽きることなく展示物を眺めていたような興奮に近い感覚を持って読んでしまう著作である。

 日ごろ、研究書に対してそのような感覚を持つことはあまりないのだが、本書は、ポピュラー文化に関する様々なミュージアムを題材にした、その情報量の豊富さからしても、多量な展示物を眺めるときの、あの楽しさの感覚を持って読んでしまう著作である。

 思えば昨今では、ポピュラーな題材を扱ったミュージアムが増えてきた。本書の第8章で取り上げられているマンガ関連ミュージアムなどはその好例としてすぐに思いつくものだが、その中には大学と協力関係にあるものや、著名なマンガ家を記念したものなどが、いくつも存在する。

 これは、日本社会におけるポピュラー文化がその歴史的な積み重ねの中で、一定の成熟に達し、アーカイブされるほどのものになってきたということなのだろう。いうなれば、「ポピュラー文化のミュージアム化」という変化である。

 その一方で、ミュージアムそのものがポピュラーな存在になってきたという変化も存在するようだ。評者が担当した第9章の鉄道ミュージアムなどはその典型例だが、かつては軍国少年に対する科学教育の場であったものが、今日では、ノスタルジックな文化を消費する場へと変わりつつある。博物館といえば、おしゃべりをしていると怒られたような厳粛な場であったのが、今日のポピュラーなミュージアムでは、むしろ子どもたちが走り回るレジャーランドのような場であることが多い。これはむしろ、「ミュージアムのポピュラー文化化」ともいえる変化だろう。

 こうした2つの変化を、編者の一人である村田麻里子は、第1章において「ミュージアム・コンテンツの<ポピュラー文化>化」と「ミュージアム体験の<ポピュラー文化>化」とより正確に言い表している。

 その第1章も含まれた第一部では、こうした新たな現象をとらえるための、理論的な視座および調査方法の検討が行われている。そして続く第二部では、化粧品(第5章)、音楽(第6章)、映像コンテンツ(第7章)、マンガ(第8章)、鉄道(=マニア文化、第9章)、エスニック文化(第10章)といった具体的な事例の検討が行われている。

 巻末のおすすめミュージアムリストとあわせて、これらの事例やコラムの数々を見ているだけでも十分に楽しいが、しっかりとした研究アプローチ法を検討した第一部だけでなく、今後の行く末までも見据えた第11章と合わせて読む込むことで、こうした文化現象に対する理解が間違いなく深まることであろう。

 自らも参加している著作を高く評価するのには、やや躊躇するところがないわけでもないのだが、それでも本書は、昨今の日本のポピュラー文化研究書の中でも久々の傑作といってよい一冊だと思う。

 研究者だけでなく、ミュージアム好きの方に広くお読みいただきたい。


→紀伊國屋書店で購入