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『メディアと日本人―変わりゆく日常』橋元良明(岩波新書)

メディアと日本人―変わりゆく日常

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「実証的なデータからメディア社会の変容を読み解く」

 本書は、東京大学大学院情報学環橋元良明研究室を中心に、1995年以来5年おきに行われてきた「日本人の情報行動」調査の結果を元にして、メディア社会の変容を読み解いた著作である。

 「日本人の情報行動」調査については、東京大学出版会から、実施回ごとに結果をまとめた大部の著作が出されているので、詳細についてはそちらをご参照いただくとよいだろう。

 本書は新書版なので、いくつかの内容に絞った構成がなされている。1章で、各種メディアの歴史的な普及過程が論じられたのち、2章では1995年以降のメディア利用実態の変容を調査結果から読み解き、さらに3章、4章では、メディア「悪影響」論や、「デジタル・ネイティブ」論といった個別的なトピックが取り上げられ、そして終章で、これからのメディアの行方やそれに対する我々の向き合い方などが論じられて締めくくられる。

 過去から現在、そして未来に至るまで、バランス良くトピックが取り上げられており、かつハンディで読みやすい本書は、メディア論入門に格好の一冊といえる。実際に、評者も本年度の学部ゼミの購読テキストの一つに指定している。

 中でも、特におすすめなのは、やはり「日本人の情報行動」調査の結果がコンパクトにまとめられた2章であろうか。1995年以降という、インターネットや携帯電話のまさに本格的な普及過程以降の様子を丹念に記述したデータは、まさに雄弁というほかなく、読み進めるうちに、凝り固まっていた先入観や思い込みがいくつも吹き飛ばされていくようで、痛快でもあった。

 例えば、思っているほどには「テレビ離れ」が進んでいない(視聴時間は減少していても、行為者率=スイッチを一度はつける人の割合はさほど変わっていない)ということや、「活字離れ」「読書離れ」と喧伝されるほどには、読書の時間も行為者率も減少しておらず、しいて言うならば「雑誌離れ」のほうが目立っているという点などは特に興味深かった。

 またこうした調査結果の概要は、巻末の資料にもコンパクトにまとめられていて、そこだけを見ても、利用価値の高い著作となっている。まさに今のメディアについて、幅広い視点から考えたい人にお勧めしたい一冊といえる。


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