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『いつかティファニーで朝食を』マキヒロチ(新潮社)

いつかティファニーで朝食を

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「「28歳・朝食女子」たちの群像」

 これもいいマンガだった。正直に記せば、あまり深く考えずに「衝動買い」したのだが、大当たりだったと言ってよい。いや、正確に言えば、評者は食べることが大好きなので、タイトルに「朝食」が含まれているだけでの、「反射買い」だったことを吐露しよう。

 現代社会を生きる人々にとって、朝食は重要な生活の要素でありながら、軽視され続けているのが現実である。朝食を摂らずに、あるいは摂ることさえできずに、会社に行く大人や学校に行く子どもたちが数多いる。いわば朝食は、現代社会の問題点が凝縮されて表れる一つのスポットだとさえいえる。

 一方で、本作の主人公である28歳女子たちもまた、現代社会の問題点が突出して表れやすい人々である。というのも、女性たちにとってこの年代は、様々な分岐点や転換点を迎える時期だからである。

例えば、大卒の社会人ならば就職後5~6年目を迎え、仕事にも一定の責任や重みが生じてくるころだが、それと同時に未婚であるならば、30歳までに結婚をするか否かのカウントダウンが切羽詰まってくる時期でもあり、逆に早々に結婚退職をしていても、子どもが一定の年齢に達して家事や育児のストレスが高まり、つい働き続けている同年代たちと比較してしまう時期でもある。

 本作では、そうした様々な分岐点をそれぞれに進んだ28歳女子たちが、美味しい朝食を摂ること(の重要性)とともに、自分たちを見つめ直しながら、やがて前向きに人生を歩んで行こうとする群像模様が描き出されていて、非常に好感を持って読むことができる。

 例えば、冒頭では、主人公の麻里子(アパレルメーカー勤務)が、コンビニで買ってすませた朝食を不満げに取りながら、同棲中の交際相手と口論になり、やがて7年付き合った彼氏と別れて、一人転居することを決意する。

 いきなりの暗い展開に読者は戸惑うかもしれないが、自分専用の朝食用の机といすを買いこんだ麻里子は、「朝食・女子会」でこう述べるのである。

 「一人になってみて

  「あぁ これ私 好きだったの」って

  当たり前だったこと 一つ一つ思い出す作業が楽しくて

  自分と久しぶりに出会った気分」

 このように麻里子のエピソードを中心にしつつも、それぞれの登場人物(28歳女子)たちが、自分たちを見つめ直していく展開には説得力がある。それはきっと、キャラクター設定がしっかりしているからだろう。

 惜しむらくは、エピソードごとに出てくる朝食は確かに美味しそうなのだが、時にやや高価なものであったり、(あるいは好みの問題かもしれないが)本当にそこまで美味しいかどうか微妙に感じられるものもあるところである。あるいは、第一巻・第二巻について、表紙のイラストがタイトルのイメージを素直に表現しすぎているがゆえに、本編のストーリー展開とはややずれて感じられると言ったところだろうか。

 だが、それらの問題点を差し引いても、本作は読んだ人が元気になれるマンガであり、多くの方に対して、朝食を大事にすることともにお勧めしたい作品である。


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