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『雑誌の人格』能町みね子(文化出版局)

雑誌の人格

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「雑誌を元にした人格類型論」

 とにかく楽しい一冊である。

 『装苑』の人気連載が書籍化されたものだが、まえがきにもある通り、その内容は、女性向けの雑誌を中心としながら、その読者像を、著者の「独断と偏見で想像」したものである。雑誌については、著者が面白いと思ったものを選定し、一定量バックナンバーにも目を通して、想像される読者像(雑誌の人格)を「(雑誌名)さん」と呼び表したうえで、その「年齢、容姿、家族構成やら趣味まで勝手に考えて、一人のあるいは複数の人格として作りあげ」ている(まえがきより)。

カラフルなイラストもふんだんに描かれているので、眺めているだけでも楽しいが、その画力とキャッチフレーズ、的確な分析に基づいた文章が相まって、「あるある」と感じながら読むことのできる、説得力のある内容といえるだろう。

 個人的に気になるのは、女性向けに比べて、男性向け雑誌にやや辛口なコメントが目立つところだろうか。「スパ!さん」は「男性ホルモンと社会性の間でバランスを取りながら暮らす、独身サラリーマン」であり、「メンズノンノさん」は「上京したてのダサい18歳の後輩と、その前に颯爽と現れる大学デビュー後の先輩との関係性」と名付けられている。

もっともこれは、著者の考えというよりも、雑誌が表すような華やかな消費文化に、未だ十分に適応できていない、男性たちに問題があるのかもしれない。よって、むしろ女性向け雑誌では、楽しそうなライフスタイルが伺えるキャッチコピーが多く見られるのが対照的である。

 また私見に基づくならば、雑誌の人格には大きく2つの種類があるようにも思われる。一つは、個別細分化した差異化志向で少数派的な雑誌、もう一つは、同調志向の多数派で共通文化=最大公約数的な雑誌である。

 女性向けでいえば、前者は例えば、「小悪魔ageha」「KERA」などが、後者は「Seventeen」や「Sweet」「non-no」などが該当するだろうか。

 そして、当然のことながら、前者の人格のほうが、よりキャラが立っているように感じられたが、後者についても、多数派志向の人格であったり、これから細分化していく前の思春期の人格などが説得的に描かれていたのは評価に値しよう。

 実は、評者は本務校の授業で、こうした雑誌文化の研究を例年行っており、こうした読者像のプロファイリング作業は、学生たちへの主要な課題の一つとなってきた(本書の存在もその受講者の一人が教えてくれたものである)。

 この課題に、学生たちは毎年悩まされることになるのだが、本書は、こうした雑誌文化研究にも示唆深い参考書となろう。

 だがその一方で、こうした学生たちの悩みであり、雑誌人格類型論の困難もまた本書には示されているように思われる。

 というのも、掲載誌が『装苑』だったこともあるが、本書が取り上げている雑誌は、若者向けというよりも、やや年齢層が上のものが目立っている。そして、そのことが示すように、今後の世代に対しては、その購読率の低下もあって、雑誌が代表的な差異化のシンボルとしては機能しなくなる可能性があるからである。

 実際に、今日の若者たちに話を聞いていると、「どの雑誌を読んでいるか」ではなく、「(そもそも)雑誌を読んでいるということ」によって差異化が果たされることすらあるようだ。

 だが、そうした動向は決して、本書の価値を下げるものでは決してない。雑誌がその姿を消し始めているのだとしても、今後若者たちが皆同じようにtwitterfacebookだけを使うというような状況にはおそらくならないだろう。

現在は過渡期であり、また新たなメディア利用の人格類型論が必要になる時代が来るはずであり、本書はそのための貴重な資料としても役立つ日が来るはずである。


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