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『黒鉄ボブスレー』土屋雄民(小学館)

黒鉄ボブスレー

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「ガンバレ、町工場!」

 本作は、『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載中のマンガを単行本化したものであり、作者の土屋雄民氏はこれが初の連載作品だという。
 タイトルからもわかるように、本作は、下町ボブスレープロジェクトをベースにしたものである。

 同プロジェクトについては、昨年末に関連する書籍が発売され、紀伊國屋書店のウェブサイト「注目の本・書評で読む」でも、『下町ボブスレー―東京・大田区、町工場の挑戦』(細貝淳一著/朝日新聞出版)と『下町ボブスレー―僕らのソリが五輪に挑む―大田区の町工場が夢中になった800日の記録』(奥山睦著 /日刊工業新聞社)の二冊が紹介されていたので、ご記憶の方もおられるだろう。(http://www.kinokuniya.co.jp/c/20131225145017.html

 改めて記せば、下町ボブスレープロジェクトとは、大田区の町工場が中心となって、ボブスレー競技のそりを制作し、外国の有名メーカーと対抗しながら、オリンピックでの採用を目指すというものだ。残念ながら、先日のソチ冬季五輪では採用に至らず、日本チームは外国製のそりを使うことになったが、今後も2018年の平昌冬季五輪での採用を目指して、改良を続けていくという。

 すでにNHKでもテレビドラマされているが、本作は待望のコミカライズである。連載が長く続いて、若い世代へとその魅力が伝わることを願いたい。

 さてその内容だが、まずもって、土屋氏の泥臭い感じの絵柄がいい。男臭く、汗と油臭く、やぼったい感じの町工場の雰囲気がよく伝わってくる。けれども、そこで働く人々は職人気質で、技術については一流のものを持ち合わせている、といった展開もいい。

 しいて言うならば、今のところ本作では、あくまで男臭い職人気質の町工場の世界が描かれており、女性の登場人物はサブキャラの位置づけにあるのだが、あくまでノンフィクション路線を重視するならともかく、男性だけではなくて、想像力にあふれ高い技術も持ち合わせた女性が出てきても面白いのではないだろうか。

 そしてそのほうが、男性中心的でノスタルジックな内容に陥らず、むしろこれからの未来の展望を予感させる内容にならないだろうか。

 せっかくのコミカライズなので、そんな風に多少のフィクショナルな展開も期待したくなってしまう本作を、ぜひ多くの方にお読みいただきたいと思う。


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